──これだから君は。
「……」
視線の先で、同居人が机に突っ伏して寝ている。狭い机には専門用語のの並んだ資料やら分厚い研究書やらが乱雑におかれていて、余裕のなさが窺えた。普段は整理整頓が得意なのに。
「うわあ」
一歩近づいて、思わず顔を顰める。長い銀髪に隠れて見えにくかったけれど、枕がわりにしているのはハードカバーの専門書だった。もはや題名すら全く理解できない。少し眉間に皺が寄っているのは、無理な体勢で寝ているからだろうか。このままだと首を痛めてしまいそうだ。
「んん゙……」
ほら、苦しそうにしている。早くベッドで寝かせてあげたほうが良いだろう。
「んー……」
浮遊魔法を使おうと杖を手に持って、少し考えてから机に置く。すやすやと寝こけている様子を確認して、背中と膝裏に手を差し込んだ。
「またご飯抜いたな」
この前抱えたときより軽い。研究に熱中すると寝食を忘れる癖は相変わらずで、早く寝ろと言っても聞きやしない。まるで子供だ。遅れてきた反抗期とでも言うのだろうか。
「んう、」
ふいに力のこもっていた表情が緩んで、穏やかな寝顔になる。白銀の睫毛が微かに震えたと思えば、口元が笑みを形作った。
「夢でも見てるのかな」
そんな様子は微笑ましいけれど、今度こそ時間を忘れすぎる悪癖をどうにかしなければ。
さて、頑固な恋人をどうやって説得しようか。
(どうすればいいの?)
11/21/2024, 12:58:04 PM