「透明」
ふと、目が覚めた。
部屋は暗く、月明かりが入り込んでいる。
いつ間に寝てしまったのだろう。
そう思いながら襖を開けた。
襖を開けたその先に広がっていたのは、
月下に眠る草木と秋虫が鳴らす涼しい音。
そして、空に輝く夜の主。
私は呆然と立ち尽くしていた。
特に理由も無く、縁側に出た。
床の軋む音が、静寂の楽園に響く。
左右を見ても、明かりは見当たらない。
この屋敷に月より輝いていいものは存在しない。
加えて、私以外の人の気配も無い。
私は人間を求めて彷徨った。
ひたひた
ギィギィ
嗚呼、誰もいない。
思えば、私は誰なのだろう。
自らの事も思い出せない。
私は歩く屍か?
ならば...
考えていた途中、なんの変哲も無い襖に目が止まった。
代わり映えのない、ずっと見ていたはずの物に。
その襖に触れようとした時、
自らの手が震えていることに気付く。
この襖を開いた時、お前は人ではなくなると。
そう訴えているように。
私はその震えを黙らせた。
一度開けると決めたのだ。
誰にも邪魔はさせぬ。
私はもう止まることはないと決心し、
私はその襖に
手を掛けた
襖を開けた瞬間理解する。
私は「ここに居てはいけなかったのだ」と。
襖を閉じることなく、自室へ戻る。
己の悪夢を止める為に。
了
3/13/2025, 12:45:52 PM