へるめす

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――こないだ、落とし物拾ったんだけどさ。
昼休み、弁当箱を開けるわたしに向かって、彼女は出し抜けにそう言った。それから?とわたし。
学校と駅の間に竹藪があるでしょ、あそこに黒いスポーツバッグが置いてあったの。たぶんうちの生徒のかなと思ったんだけど、そうとも限らないだろうし、一応、交番に届けたのよ。善行でしょ。ふうん。わたしは箸でミニトマトをつまみ上げ、口へと運んだ。で、一応書類書いてって言われたんだけどさ。口の中で果肉がはじける。書類持ってくるから待ってろって言ったきり戻って来ないわけ。舌先に酸味が纏わりつく。じれったくなっちゃって、悪いとは思ったけど、鞄の中身が気になってきたのよね。すべらかな触感を咀嚼する。何が入ってたと思う?嚥下される真っ赤な実。何?――冷たくなったわたしの身体。
――っていうのは冗談。どう?びっくりした?――くだらない。呆れた顔で、彼女を見据える。それで、何処から嘘なのよ。わたしは卵焼きに箸を伸ばす。黒い鞄が藪に置いてあったところまでは本当。でも、本当の中身はあなたの――
空の弁当箱と箸がカラカラと音を立てて床の上を跳ねた。

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善悪

4/27/2023, 2:58:43 AM