NoNamae

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「忘れもしない、あれは1998年7月25日。
 酷く暑い日の昼下がりだった」

「またその話か、勘弁してくれよ……
 あぁ、あの日は暑かったな。酷く暑かった」

「あの日も今日と同じように、
 冷えたビールを片手に映画を観ていたんだ。
 観ていたのは確か……
『My Neighbor Totoro』だったかな」

「いや、『Porco Rosso』を観てたよ。
 間違いない」

「そうだったか?
 まぁ、そうだったかもな。
 とにかく、そんな平和な時間を過ごしていたら、
 ビル、君たちSWATが来たんだよな。
 うちの玄関を蹴破って」

「SWATと麻薬取締局の合同チームだよ。
 麻薬捜査官が主導権を握ってた」

「で、君らは僕に言うわけだ、
 『ブツはどこに隠した!』て鬼の形相でね。
 僕は咄嗟に『ベッドの下です!』て叫んでたよ」

「あぁ、それでベッドをひっくり返して、
 大量に出てきたアニメビデオの山を見た時の
 麻薬捜査官どもの顔ときたら!
 傑作だったね!」

「宝の山を見つけたクック船長のような?」

「そんな顔するのはお前くらいなもんさ、ジョージ」

「ビル! 同志よ!
 君も似たような顔してたぜ!」 

「俺はもっと理性的で
 渋みのある顔付きをしてたと思うがね」

「毎週、うちにアニメを観にくる男は、
 もっと締まりのない顔してるけどね。
 ビルって名前なんだけど」

「ぬかしてろ」

「まぁ、これが麻薬取締局が家を間違えた事件と
 僕が親友を得た顛末なんだけど……
 連邦捜査官殿、今日またうちの玄関が蹴破られ、
 突然の君の訪問。なわけだけど、
 これもまた誤認だと思うよ?
 いや、いまの段階で誤認というのは行き過ぎかな。
 何れにしろ、僕達はもっと理解し合う必要がある。
 そうだろ?
 ……それでその……
 そろそろ銃を下ろしてくれると、
 ありがたいんだけど……」


// 突然の君の訪問。

8/29/2023, 9:46:21 AM