言い出せないことの代表格といえば、「怒らないから正直に名乗り出なさい」だと思う物書きです。
信用ならぬことの代表格でもあると思います。
今回はその、言い出せないことがお題とのこと。
こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
たとえば多々存在する業務の中に、
滅んだ世界からこぼれ落ちた難民を収容して、第二の生涯を安全に、満足のもとに過ごしてもらうための、難民シェルターの運営などがありました。
難民シェルターの広さは規格外。多くの難民を受け入れて、すべての難民に住居が貸与され、
なにより、すべての難民が満足できる、1日3食おやつ付きとフカフカお昼寝ベッド完備!
滅んだ世界、まだ在る世界、いろんな世界の料理屋さんで、赤いスカーフ巻いた二足歩行狐が、自慢の料理の腕を披露するのです。
ところでそこから『言い出せなかった「」』に繋がるかといいますと。
その日、難民シェルターの中の某レストランで、
すなわち、ホールスタッフ狐がごにょごにょ。
ご飯を食べに来た管理局員の前で、一生懸命に注文のメモを、カリカリカリ!書いておりまして。
注文を並べる女性の管理局員は、ビジネスネームをドワーフホトといいました。
ドワーフホトは、大親友のスフィンクスと、美味追求仲間の稲荷子狐を、連れてきておりました。
「ボイドクラゲの甘油炒めを3個とー、
カリカリポンパのビーヒトを5個、
それからぁ日本稲荷寿司の食べ比べセット〜5個、
宇宙ポークの焼き豚も10個くださぁい」
ドワーフホトは、美味しいものが大好き!
メニューブックに掲載されている、丁寧に下準備された炒め物、絶妙な温度管理の為された揚げ物、
それから稲荷子狐への配慮も忘れません、
あらゆる美味を、注文しています。
「あ!それからコレぇ!」
ドワーフホトはメニューブック5ページ目の、右端の料理に気が付きました。
「星柚子と水晶ミカンのソースを添えたポークステーキ、1kgを3個〜」
それは、貴重な柑橘ソースをたっぷり使った、甘じょっぱくてスッキリなステーキでした。
「おにく、おにく!」
稲荷子狐、次々と注文される不思議な料理の数々に、お目々がキラキラ!輝きます。
「おまえら、ホントに食い物が好きだなぁ」
ポークステーキとサンドイッチセットだけ頼む予定のスフィンクスは、通常運転のドワーフホトに、微笑して話しかけました。
遠くで法務部のルリビタキが、くるみ味噌のタレに一味を振って、ざる蕎麦など食べています。
随分な量を頼んでるな。
ルリビタキは思いましたが、言い出せないというか、別に言い出す必要もありませんでした。
お題回収役はドワーフホトの、注文を聞いてメモをしておった、ホールスタッフ狐でした。
「はい、はい。 ……はい……」
赤いスカーフ巻いたスタッフ狐の、
言い出せなかったこと「注文し過ぎ!」は、
怒涛の注文ラッシュと、それからドワーフホトがドチャクソに利益率の高い料理ばっかり頼んでくれる大フィーバーとで、
完全に、封殺されておりました。
「はい、 はい。 は……い」
黒い手袋に黒い靴下、アカギツネなスタッフ狐の、
言い出せなかったこと「時間かかっちゃう!」は、
その日の売上と純利益が、開店史上最高記録をダブルスコア、いいえ、トリプルスコアで追い越す高揚感のバク上がりで、
完全に、封殺されておりました。
言い出せなかったこと、言い出せないこと。
「調理だけで多分2時間かかる」「調理スタッフが足りてるかすら怪しい」。
ホールスタッフコンコンが会計コンコンを見ると、
既に会計コヤンは今日お休みのスタッフやバイトに、緊急招集をかけておりました。
そうです。総力戦です。
今こそキッチンフォックスのプライドを、意地を、矜持を、高く掲げるときなのです!
……にしたって注文量が多いのです
(言い出せなかったこと「貸切予約してくれ」)
ぞろぞろぞろ、とてとてとて。
ドワーフホトが注文してる間、戦闘態勢の調理係狐が、休憩時間や休日を蹴って、大集結です。
くるみ味噌ダレのざる蕎麦を食ってるルリビタキのテーブルの前を通って、キッチンに向かいます。
「……では、ご注文を、確認しますコン!」
ホールスタッフフォックスが、声高らかに、まっすぐな声で、開戦を宣言します。
これから厨房が戦場となることは、お客様には、言い出せないことであったでしょう。
それでも狐は、耐え抜くのでした。
それでも狐は、成し遂げるのでした。
おしまい、おしまい。
9/5/2025, 4:21:08 AM