椋 ーmukuー

Open App

AM5:00起床。PM9:30就寝。三食はきっちり摂って朝と夕に30分以上のランニングかウォーキング。かれこれ健康児を続けてきた。両親にはみっちり仕込まれて一人前になれる手前まではきたと思う。

だけどあと2年もあれば立派な大人。青春時代だと言われる期間は多分この2年が山になる。部活だとか勉強だとか恋愛だとか。みんなは熱を上げて後悔ないように必死に足掻いてる。一方自分はというと何一つ本気になれずに一人ぽっちでおいてけぼり。追いかけたいとも思えなくなった。ダラダラと少しずつ堕落していく日々に気力さえ湧かなくなった。

どうしたものかね。これっぽっちだったか、自分。

なんてすぐに諦めるのも性にあわないのでとりあえずこの虚しさを忘れるためにとあるアプリを入れてみた。テキトーにフォロワーを増やしつつ好みの声の人を探して沢山の方のルームに訪問した。同年代、大学生、同性…2ヶ月した頃くらいに、相互さんのルームでお話していた時である。たまたま入ってきた相互さんの知り合いの声がどちゃクソタイプだったのだ。

何かしらお近づきになりたくて柄でもないけど積極的には頑張った。それなりに年上で落ち着きがあって、声を聞くだけで安心する。話もよく聞いてくれるしマメに連絡を取ってくれる。
自分が未熟すぎる分、相手が大人で、遠くに感じる。
それが本音だけど、ここまで仲良くれたのも奇跡かなってたまに思う。ワガママも言えないからとりあえずってまた誘われるがままにルームに入る。

「お疲れ様」

『お疲れ様です』

声を聞けばまた安心してキーボードで返信を打った。いつものようにそれなりにダラダラ話をして今日もお開き!そのつもりだった。

「なぁ、そろそろミュート外してもええんやない?嫌なら無理には勧めんけど」

ごくりとひとつ息を飲んだ。驚いて落としたスマホを拾い上げるとまたカタカタと返信する。

『む、無理です!私はもう全然ブサボなんで!』

「私は声聞きたいけどな?ブサボとか思わんよ、そんな事気にせんでええよ笑 ホンマ可愛ええな」

まるで取扱説明書を知っているかのように私を弱らせて促してくる。そんな手口で一体何人を弄んできたんだろうか。嬉しさと共に意地の悪い考えが湧いてくる。

『少しだけですよ』

一言前置きして、迷わずミュートを解除した。


いつからか好きになってしまった。ネットとかそんな危ない所では絶対しないと決めていたのに。相手のペースに乗せられてその気になって。本当にバカみたいだ。どこか遠くに住んでいる会ったこともないあの人を想ってまた苦しみに犯される。

題材「遠くの空へ」

8/16/2025, 1:15:28 PM