第二話 その妃、花か団子か
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遥か昔、この国がまだ小国として統一していなかった頃。三つの豪族たちが争い続けていた。
愚かな戦いの末、全ての人が生きることを諦めていたその時、異国の青年がこの地を訪れる。
母を失った少女は、泣きながら異国の服に縋り付いた。
そして願った。争いのない日々をと。ただひたすらに。
青年はしかと頷いた。
そして幾つもの困難を乗り越え、国に平穏の時を取り戻していったのだった。
この国の人間にとって、青年はまさに英雄そのもの。後に人々は彼を“帝”と呼び、永遠に崇め奉ったという――。
* * *
時は昭和元禄――天下太平奢侈安逸の時代。
深山に隠れるよう、俗世から切り離された小国『花洛』とその京畿を治める“帝”は、小さな苛立ちを漏らしていた。
それは恐らく、『愛しの小鳥』が彼の鳥籠から逃げてしまったからだろう。今のところ、まだ見つかってはいないようだが。
『たった今から、貴様は餌遣り係だ』
どうやら今は、つい最近手に入れた『新しい小鳥』の世話に苦労している様子。
たった一羽にのみ寵愛を注ぐあの帝が気にかけるという事は、ただの小鳥ではないようだが。……あんな所に閉じ込められては、簪一つ買えはしないだろう。
『街へ行って、それらしい物でも見繕って来るかな』
こんなの、ただのご機嫌取りに過ぎなかったのだが。
『待っておったぞ』
まさか、初対面で懐に忍ばせていた自分用の月餅を全て奪われるとは。
「……まあ、花より団子ってわかっただけでも収穫だったってことで」
「んあ?」
「そんなに頬張らなくても横取りしませんよ」
今にも喉に詰まらせそうな、かわいらしい彼女に茶を淹れながら。
「……早よう続きを聞かせよ」
「まあまあ、そう焦らずにいきましょう?」
気高き妃と話をしよう。
月が落ちても。東の空に陽が昇って、また月が昇っても。
面白い話はいつまで聞いても飽きない。
そう言ったのは、他でもないあなたなのだから。
#街へ/和風ファンタジー/気まぐれ更新
1/28/2024, 11:17:59 AM