22時17分

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春風とともに、ドアを叩く音がした。
トン、トン、トントン。
場所は玄関。木でできているから、軽いノックが音に乗る。
木こりの斧で叩かれたようだった。絵本のなかにだけ存在するおもちゃではない。まるで、本物そっくり。野生のリスでも狩ったのだろうか。だから、中にいた居住者は、身を竦める。

トン、トン。トントン。

不気味なノックは、なかなか不在着信にならなかった。
自分が彫刻になるように、仏に祈った。宗教なんて、身になじまぬ観念。生まれてはじめて教わった、名の知らぬ母からの記憶、入れ知恵。
絶妙な静けさ。ノックのみ響き渡る空間。

誰だ……?
と、異母妹は目線をあげた。手には血糊のついた包丁があり、氷柱のように鋭い。その時ほど、肝に据わった女性というのは、他に漏れないものだろう。

異母妹は血まみれで、異母姉は絶命。
数時間前までかりそめの家族だったものだ。今は、冷たいドライアイスのお世話になっている。細かく切り刻んでやろうとも思ったが、予定がクルッと変わった。

しばらく、音が止んだ。
不幸中の幸い。鍵を掛け、ドアロックをしてから凶行に及んだのだ。しかし、ここからどうすれば良い?

「ねぇ、どうすればいいと思う? ねぇ、ねぇ、ねぇ……」

春風とともに、振り下ろす凶器。
冬風とともに、吹き上げる狂気。
大家を携え、警察がドアを開けるまで、三十分以上も掛かってしまった。

「春香さん! 大丈……くっ、遅かったか!」
どうやら二人は天使になったようだ。玄関より吹いた春風とともに神聖なる羽根が生え、尊い宇宙へ羽ばたく。
「春香ぁ! はるかぁぁ!」
異母姉の名前だけを叫ぶ、母親を残して。

3/31/2025, 9:59:25 AM