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落ち葉の道 


 家族で、花壇が有名な公園に行ったことがある。人間は乗れない観覧車とかただっ広い芝生とかがあったのだけれど、私の興味は小さな小川一直線だった。なにせメダカが泳いでいたのだ。仕方ない。
 そうして小川を見ているうちに、この川は一体どこから来るのかということが私は気になってくる。そうして私はちょろちょろとした小川をたどって緩やかな坂を登っていった。登るうちに小川の本流と再会する。そこはすでに森の中で、大量の落ち葉が道を埋め尽くしていた。いや、落ち葉が多すぎて地面が見えなかっただけで、そこに道はなかったのかもしれない。
 その川にはほぼ黒くなったボロの橋がかかっていて、私は子供ながらに胸を躍らせ、その先に進むのである。川の流れのそばを道がある方へ歩く。木に何か箱がかかっていたのを見るに、それなりに人が入っているらしかった。そして道は下り出す。その頃は雨の後だったのか落ち葉が濡れていて、足をとられそうだったのを覚えている。
 足を滑らすのが怖くて私が足を止めていると、「こわかぁないよ」と人の声がした。直ぐ側には染めたような黒髪の老婆が立っていた。足元には私と同い年くらいの子供もいる。
「こわかぁないよ」と、子供が老婆を真似て言うので、私は「こわかぁないの?」と恐る恐る尋ねた。
 今更になって思うことだが、老婆や子供は一体何を怖くないと言っていたのだろうか。濡れた落ち葉の下り坂を歩くことか、それとも老婆たち自身のことか。今となっては確かめる術はない。
「大丈夫、怖いものは怖いと思う者に来る」
 私の問いかけに老婆はそう答えて「ほら」と言った。子供も「ほら」と繰り返す。
「怖いのならここから先へは行けないね」
 私はわけが分からなかったが、とにかく足を進めることにした。滑るときはそのときだといつものように足元を見ながら足を進めて下り坂を終えたあたりで、私は顔を上げた。
 私は森の外に来ていた。あり得なかった。すぐ足元にちょろちょろと小川が流れている。私が入ってきたところだ。こんなもの、私が体の向きをそっくり変えていないとありえない。私は何が何だか不安になってきて、芝生でシートを敷いて待っているらしい母のもとに急いだ。

 私があの落ち葉の道を歩くことは二度とない。

11/26/2025, 2:50:35 AM