燈火

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【無人島に行くならば】


私は各地を旅することが好きだが、迷子癖がある。
君は地図の読解が好きで、実際に行きたがっていた。
私は緊急時のナビを、君は案内役のガイドを求めた。
互いの利害が一致して、今では共に旅をしている。

私の旅の目的は、地域の特色や特産品を知ること。
珍しいものを見つけるとふらふら吸い寄せられる。
その度に強く腕を引き戻され、君に睨まれる。
迷子癖を自覚しているなら勝手に動くなと怒られた。

正直、一人旅のほうが気楽で自由だった。
迷子になっても、その状況を楽しむことができた。
君も「子守が大変すぎる」と度々後悔を口にする。
でも、私たちは似た者同士だからお互い様だ。

知らぬ間に、隣から君の姿が消えていることがある。
そんな時は近くの書店を探せばすぐに見つかる。
目を輝かせて、あれもこれもと地図を抱く君。
この時ばかりは年相応に幼く見えて、可愛らしい。

宿屋で地図を広げていた君は、ふと気がついた。
「なあ、ここ。おかしいと思わねえ?」
並べた二枚の、同じ場所にあたる箇所を指し示す。
一方は島の起伏が、他方は潮の流れが描かれている。

「なんで?」眺めたところで私に地図は読めない。
「ここに島があるのに、近海の波が一定すぎんだよ」
地図を斜めにしたり裏返したり。君は首を傾げた。
描かれているのに存在しないのか、と訝しげに呟く。

「行ってみたらいいじゃん。次、そこ行こうよ」
実際に行けば、どちらの地図が正しいのかわかる。
「簡単に言いやがって。案内するの僕じゃんか」
不満そうにしているけれど、君の頬は緩んでいる。

10/24/2025, 9:41:42 AM