Ryu

Open App

夕暮れ時の喫茶店。
男女二人の客が来店して、窓際の席に座る。
ウェイターがコーヒーと紅茶のオーダーを取ってきて、私はコーヒーの豆を挽き始める。

「それじゃ、俺達はこれで終わりってことで」
「そうだね。これ以上続けても、お互いがもっと嫌いになるだけだもんね」
「俺は別に…嫌いになったわけじゃないんだけど…」
「そーゆーの、もういいよ。早く話、進めちゃお」
「うん…あ、待って。コーヒーが…ありがとうございます」
ウェイターが、コーヒーと紅茶を机に置いて離れる。
彼氏の方が、置かれたコーヒーに無造作に角砂糖を放り込んで、話の続きを始める。

「とりあえずさ、お互いに貸してるもの、返そうか。CDとかマンガとか、お金とか」
「ああ、私のは全部あげる。あなたから借りてるものは、後で全部郵送で送る」
「あ…そう。…あ、じゃあ、俺もいいや。たいしたもの貸してないし」
「うん、じゃあ、あとは?」
「あとは…えーと、別れた後はどんな感じで接すればいいのかな?俺達」
「えー、接する必要はないんじゃない?赤の他人ってことで」
「いやでもそれは…これだけ知り合った仲なのに?」
「それが、別れるってことでしょ?変に知り合いの顔なんて出来ないよ」
「そ、そうなんだ。そーゆーもんか…」
「他には?何かある?」
「他には…あのさ、付き合ってて楽しかった思い出とか、語らない?お互いに」
「…」
「あ、いや…やめとくか。まあ俺は、楽しかったんだけどな…」
「だからそーゆーのはもういいって。二人で決めたことでしょ」
「そ、そう、そうだよね。…よし、もうこうなったら、このコーヒーが冷めないうちに話を終わらせよう。…うん、お別れだね」
「そうだね。今までありがとうね」

彼女が立ち上がる。
いよいよクライマックスか。

「あ、待って。まだ俺のコーヒーは冷めてないんだけど…あ、嘘です…サヨウナラ」
「うん、さようなら」

来店して、16分。
もう少し、じっくりコーヒーも紅茶も味わって欲しかったが、事情が事情だ、仕方ない。
とはいえ、彼氏の方は一人、まだ席に残っている。
私はコーヒーの入ったポットを持って、彼のもとへ。

「おかわり、いかがですか?サービスです」
「え、ホントですか?ありがとうございます。いただきます」
「まあ…人生いろいろありますよね。まだ若いんだし、こーゆー経験もね」
「あ、いや、よく考えてみたらね、俺の方がよっぽど多く彼女に奢ってたなって。マンガとかも、もう一回読みたいの貸したまんまなんすよね」
「…ん?それを彼女に言うの?」
「…ダメすかね?」
「そのコーヒーが冷めないうちに飲んで、帰ってもらえる?」
「…もう少し大人になって、また来ます」

うん、もっと成長して、女心なんかももう少し分かるようになって、この店のコーヒーの苦味を美味いと感じるようになったら、またのご来店をお待ちしております。

9/26/2025, 2:21:30 PM