ことり、

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広場の時計台の鐘が時を告げる。
カンカンカンカン。四時。一時間待った。
待ち人は現れない。
無駄足だったか、と立ち去ろうとする青年。その青年の前に、
踊るように現れた人影。
「ピエロ…?」

訝しむ青年の前で、
ピエロはパントマイムを始めた。
カバンが地面にくっついて離れない。
ようやく引き剥がしたかと思えば、
空中で止まって動かない…。
ベタなストーリーだが、
少しだけ青年の心は明るくなった。
最後に被っている帽子に投げ銭を、
というジェスチャー。
なら喜んで、と青年は財布を取り出しかけ、ピエロは帽子を取る。
その刹那。

帽子の中から鳩と花が一斉に飛び出した。
「わあっ…」
人々は歓声を上げ、
子供たちは鳩を追いかけ回し、花を拾った。青年は目を細めその光景を見つめた。
どこからともなく拍手がおこる。
しかし。

ピエロは消えていた。
人々もきょろきょろとピエロを探すが、
次第に興味を失い、
広場はいつもの光景を取り戻した
青年の取り出した財布は行き場を失う。

まあ、ここはひとつコーヒーでも。
キッチンカーのエリアに向かった。
コーヒーひとつ、
氷なし、ミルクのみ、濃いめで、
と注文した。
「あの、この前も注文いただきましたよね?
いつもありがとうございます!」
よく店員を見てみると、
この前も接客してくれた娘だった。
「あ、はあ」我ながら間の抜けた声が出た。
「さっきのピエロすごかったですね!
私なんか…」
興奮冷めやらぬといったふうで、
くるくると表情が変わる。
よくみると可愛い娘だ。
青年は用意していたプレゼント、
クッキーだが、この娘に渡そうかと
思い始めていた。
時刻はもうすぐ五時、
また時計台の鐘が時を告げようとしていた。

9/7/2023, 12:37:01 PM