嗅ぎ慣れない薬品の匂いを鼻腔が感じ取る感覚がする。病室をふらりふらりと覚束無い足取りで徘徊してみては、点滴が動くときのかしゃんかしゃんという金属的な音がした。底抜けに青々しい空を見詰めては、眩しさと羨ましさに顔を顰めた。
「───そもそも、何故私を生かしたのかが不明瞭過ぎて訳がわからないんだけど」
上記を呟いてみれば、にこり。パイプ椅子にそんなオノマトペが聞こえてきそうな笑顔を浮かべた男が座っていた。幸薄げに見えるが、どこか不気味さを感じさせる笑みであった。この笑みが、わたしはいつまでも苦手だ。その男はカラスのように黒い服に身を包み、白衣とのコントラストを感じさせる。
男の薄い唇がすぅ、と開く。
「そんなの知らなくていいだろう、夏咲ちゃん」
「……名前を呼ぶなって何回言ったらわかる?やめろと言ったばかりだろうが」
つい口が悪くなる。
男は、私の顔を見ては恍惚とした───もしくは性的に興奮しているような───表情を浮かべた。
「あぁはははは、御免ね」
「……もう善い、本題だ。何故私を生かした?」
いや、そもそも何故、こんな事に?
───────────────────────
かさきちゃん❗
8/2/2023, 11:17:01 AM