NN

Open App

『太陽』

さっきから顔が熱い。本当に発火してしまいそうだ。
どうしていいかも分からず、私は話題を逸らすしか無かった。
[あっあの、もっかい弾いてください。]
「え?あー、あの曲?」
[はい。初めて来た時も弾いてましたよね。]
「そーだったっけ?よく覚えてるね。」

微笑んだ朝日さんは、何か思いついたようだ。

「じゃあさ、弾き方教えてあげるよ。あの曲の。」
[え?でも…]「そういう約束だったでしょ。」
[覚えてるじゃないですか。初めて来た日のこと。]
「今思い出した。」

狡いなと思いながらも、私の胸は高鳴っていた。
はい、座った座ったと急かされ私は朝日さんとピアノの前に座った。

「初めはここからね。俺の真似して。」
そう言って鍵盤に触れた瞬間、時間が歪んだように感じた。ゆっくりゆっくり時間が通り過ぎていく。

「あーっと、ここはね、こう。」
そう言って朝日さんの手が、私の手に近づく。理解している振りをしているが、意識は手に集中するばかりだ。
離れて欲しいけど、離れて欲しくない。そう思いながら、懸命に鍵盤を指で押した。

私が帰らなければいけないのは、太陽が沈む少し前。
もう少しだけ、明るく照らしてください。私はゆったりと進む時間の中で、太陽にそう願った。

《朝からの使者》EP.3太陽と朝日

8/7/2024, 10:30:52 AM