池上さゆり

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 七夕の季節、多くの笹に願いが下げられる。私はそれを叶えなければならない。でも、すべて願いが叶うわけでもない。私の力が届く範囲で、善良な人間に対してのみその願いを叶える。一年以内に叶うように調整するが、力およばずで叶えられなかったものも多い。だけど、誰も私を責めない。みんな、口を揃えてこう言う。
「神様なんていないんだ」
 この言葉に何度も傷つけられた。私はここにいるのに、それを証明できない。それが悔しくて何度も泣いた。一人じゃ背負いきれない責任に押しつぶされそうになって後任を探したこともあった。
 だけど、時々届く「神様、ありがとう」の言葉に救われて止めることができないのだ。
 そんな生活を人間の新しい一つの習慣を知った。
 流れ星が降る夜に、彼らは願い事をするらしい。星が消えるまでに願い事を三回唱えると、叶うのだという。
 それを知った私は驚いた。神様に頼らないで願いを叶える方法があるのだと。だが、どうしても不思議だった。流れ星に託した願いは誰が叶えるのだろうと。星は神様のように不思議な力はない。そうなると人間はなにを考えて祈っているのだろう。
 それを教えてくれたのは別の仕事をしている神様だった。
「神様よりも、星はものだから期待値が小さくて済むんじゃない? ほら、星よりも人の方が叶えてくれる力がありそうな気がするもの」
 そうか。それなら、私も星に願い事をしてもいいのだ。
 宇宙を眺めて流れ星を待った。すると、やっと一つの流れ星が見えた。目を瞑って、流れ星に願いを託す。
 もっと私に、人々の願いを叶える力がつきますように。

4/25/2023, 3:36:32 PM