木漏れ日
前を歩く君の後ろ姿に木漏れ日の影が落ちた。柔らかな頬の輪郭を、温かい光が縁取っている。僕は後ろから、それを見つめていた。青い並木道を歩いていく君の姿は、まるで一つの絵画のようで。
「どうしたの」
君が振り返って、こちらを見た。僕はどうやら立ち止まっていたらしい。なんでもない、と首を振る。
「早く」
君はそう言って、前を向いた。すっかり間の空いてしまった道を、少し早足で歩く。
向こうのほうにあった薄暗い雲が此方に来たようで、ぽつぽつと小さな雨垂れが僕らに落ち始めた。幸いにも、僕らは傘を持って来ていた。
「青時雨ねえ」
「青時雨?」
「時雨みたいでしょう。木立から雨粒が落ちて」
ぱらぱらと青時雨が僕らの傘を鳴らした。彼女は物知りだから、色々な言葉を知っている。雨催いの木立を歩く君も、とても綺麗だ。
「また、」
君が振り返って、僕を見て笑った。どうやらまた立ち止まっていたらしい。
「早く来て、置いていくよ」
君はまた歩き出した。その姿は綺麗で、いっそ神秘的に見えた。僕が入り込める余地がないほど、完成されているかのような光景で。どうにも、君へ向かう足が進まぬまま。
「綺麗」
君の後ろ姿を僕は見ていた。
うしろすがたのしぐれてゆくか
5/8/2025, 9:39:52 AM