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Iをください(テーマ Love you)

1

(俺って何。)

 三連休二日目。
 休日出勤も二日目で、20時も過ぎた会社で疑問に思う。

 明日は会社には行かない。
 両親が外出するため、その間、90過ぎの祖母の面倒を見なくてはならないからだ。

 三連休だが、どこにも行けない。
 職場は人が足らず、あちこちから人が抜かれて崩壊しつつある。

 名刺には3部署分の名前が書いてある。
 兼職させられて、3部署から仕事が来る。

 これが日常だなんて笑ってしまう。

 休みの直前には横の職員が異動になった。
(また人数が減るのか。)

2

 随分前から、頭の中に変なやつがいる。

 こんなところ辞めてしまえと囁いたり、あるいは体を気遣ったり。
 自分自身の声なんだろう。
 イマジナリーフレンドと俺は勝手に呼んでいた。

 元々見た目などない疑似人格だ。
 最近は人格が変わったのか、増えたのか、未来の娘を名乗るようになった。
( お父さんが結婚してくれないと、私が生まれないじゃない。)
 と、のたまう。

( 諦めてくれ。)
 もう40過ぎなんだ。
 この年で、ブラック企業勤めで働き詰め。たまの休みは介護だ。
 両親の休みはその時だけ。
 それ以外の日はずっと祖母の面倒を見ているのだから、文句も言えない。

 付き合っている人はいない。
 今から付き合う人を探すなら、もうそれは祖母、両親と続く介護要員を探すようなものだ。

 どう見ても詰んでいた。

( Love me)

 いいとも。
 そのままの君を心の中で愛するだけなら、愛しましょう。

 誰かと結婚して君を生むのは、無理目だろうけどさ。

3

(Love you)

 ん?
 どういうこと?

(お父さん、誰にも愛されていないみたいだから。せめて私くらいは、とか。)

 とは言え、君は私自身のイマジナリー人格だしなぁ。

 いや、自身を愛せない人間はだめだ、とも言う。

 そういう意味ではありなのか。

(しかし、I love youじゃないのか。 )

( Iがないから。今のお父さん。)


 ひどいダジャレだ。

 自分を愛し、自分を持つ。

 まあ、大事なことだ。

 子どもがいたら、きっとそういうことも伝えただろう。

 結婚しないまま、年を取ってしまったけれど。


 日々の仕事でいつの間にか、自分自身すら見失って。
(Iがないのか。)

 そんな状態で誰かを愛するなんて。

( Love youは、無謀だ。)

 残業は、終わるまでもう少しかかりそうだった。

2/24/2024, 11:08:21 AM