—思い出は湯煙に消える—
「よし、行くぞ」
運転手の佐野の声を号砲に、三人は車から飛び出して走り出した。
男子大学生三人は、大学最後の冬休みの思い出作りに、温泉に来ていた。
それも混浴の温泉に。そのせいか、鼻息が荒い。
「本当に女の子はいるんだよね⁈」と道中で岡本は言った。
「当たり前だ、今は温泉シーズンだぞ。いないわけないだろ」と三田が胸を張る。
普段はあまり運動しない三人だが、この時ばかりは機敏な動きを見せた。
エントランスを抜けて、受付で入場券を買う。急いで脱衣室へ向かった。
会話することもなく、黙々と準備に取り掛かる。そして準備を終えた三人はタオルを巻いて戸を引いた。
いざ、戦場へ!
「……」
三人は固まった。目の前に広がる光景は、まるで動物園。大量の猿が湯に浸かっているのが見える。
ここは、人間と猿が混浴できる温泉だったらしい。
しばらく猿と、湯を堪能した。
「違う……、俺たちが見たかったのはこんなんじゃない」
サウナの中で、佐野は涙を流して言った。
「で、でも、案外楽しかったよね」と岡本が慰めるように言う。
「もう少し調べてから来ればよかったな」と三田は肩を窄めた。
サウナの中の砂時計が、虚しく音を立てていた。
お題:砂時計の音
10/18/2025, 12:56:39 AM