今回のお題は「夏の気配」とのこと。
「ここ」ではないどこか別の、遠くとおく離れた、
夏の気配する頃に滅んだ世界のおはなしをご紹介。
「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織には、あらゆる知識と情報と、それから技術と法則とが収蔵された、大きな図書館がありまして、
その図書館の中央に、あらゆる記録と現在と可能性を映し出してくれる、物語のたき火がありました。
それは、
滅んだ世界の過去と、
生存している世界の現在、
やがて生まれる世界の可能性がすべて、
ごっちゃごちゃに混じり合って不思議な魔法の炎を燃やす、「どこかの事実」、物語の神様のたき火。
名前は、タキビ・フシギ・ナンヤーカンヤー。
これからご紹介するのは、このタキビ・フシギ・ナンヤーカンヤーが見せる、滅んだ世界の記憶です。
昔々、だいたい十数年ほど前のことです。
その世界にも四季がありまして、
ことの発端は、春の真っ盛り。
その世界は、環境汚染や人口爆発、食糧不足に資源不足と、大量の問題が完全に山積み。
いわゆる、「発展途上」に分類される世界でした。
なにより魔法資源を過剰に、100年の短期間で抽出しまくってしまいまして。
魔力を取り込んで生きる魔法生物がことごとく、絶滅の危機を迎えておったのでした。
『ああ、暑いな、暑いな』
これ以上、魔力資源を使うのはやめましょう、
今後はすべて、物理資源に頼りましょう。
その世界が打ち出した解決策は、節約・節制。
その世界なりに、解決策を模索しておりました。
『魔力さえ使えれば、こんな温暖化だって、
簡単に気候を調節して、春らしく戻せるのに』
ところでそんな途上世界に、
春の真っ盛りの頃、別の世界から救世主。
いわゆる「先進世界」の技術を引っ提げて、
「世界多様性機構」なる大きな組織が、
その世界の問題を、全部、まるっと、一気に、
解決して、去ってゆきました。
環境汚染は高度な回収・分解技術で。
人口爆発と食糧不足は別世界のスーパーフードとハイテク野菜工場のノウハウで。
資源不足、特に魔力枯渇は、不要な生物の心魂を魔力に変換する魔力炉の導入により潤沢に回復。
『あなたがたの問題は、すべて、別の世界の先進世界が既に経験して乗り越えた問題なのです』
世界多様性機構の職員は言いました。
『先進世界は、問題の解決方法と技術を既に持っている。あなたがたにもそれを共有しましょう』
既に答えの存在する問題で、無駄な犠牲が無駄に生まれないように。
過去に苦難を経験した世界の努力が、今まさに同じ苦難を経験している世界をも、救えるように。
春の盛りに「途上世界」に導入された先進技術は、
すぐにその世界に馴染み、改良や量産も為されて、
そして、世界全体に浸透してゆきました。
ここからがお題回収。
前兆無く、歯車が一気に一瞬で狂ったのは、
春の終わり、夏の気配する頃でした。
『たいへんだ、大変だ!』
環境汚染も資源不足も無くなったその世界が、次に直面したのは世界バランスの崩壊でした。
不要な生物の心魂を魔力に変換する魔力炉を、
大量に、長期間、広範囲で使い過ぎたせいで、
この世界の魔力循環の経路と総量と、なにより均衡とが全部ぜんぶ、一気に崩れてしまったのです。
どうしてでしょう?
この世界は「この世界」であり、
この世界は「炉の技術を開発した先進世界のコピー」ではなかったのです。
どうしてでしょう?
最初から魔力炉の技術を与えられたので、
その世界独自にして、その世界特有の、すなわち「他の先進世界が経験してこなかった問題」を、
完全に、見逃してしまっておったのです。
他の世界では「その技術」を使っても問題なかった魔力の過剰消費と心魂の魔力変換が、
その世界では、宇宙全体を巻き込んで真空崩壊を発生させる引き金となってしまっていたのです。
それは、外の世界が用意した「正解」に頼らず、
自分たちの世界で「解法」を探して、工夫して、失敗して、工夫してを繰り返しておれば、
簡単に、いつかどこかで、判明していたハズのケアレスミスが蓄積しまくった結果でした。
『逃げろ、みんな、逃げるんだ!』
一度崩れたドミノは元に戻りません。
一度崩れたジェンガも元に戻りません。
その世界は一気に崩壊して、滅びました。
すべては春の終わり、夏の気配する頃でした。
他の世界に頼らないこと。
自分のチカラで、自分の問題を解決すること。
このおはなしは、その教訓を、現代の生存世界に伝える良い例として、
不思議なたき火、タキビ・フシギ・ナンヤーカンヤーの炎の中で、ゆらめき続けているのです。
おしまい、おしまい。
6/29/2025, 9:51:31 AM