たぬぐん

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お題「ぬるい炭酸と無口な君」

セミの鳴き声が夏の到来を伝える8月、学校の玄関に座り込んだ僕と君の間には、長い静寂が落ちていた。

元を辿れば、帰路に着く寸前の君を僕が呼び止めたのが始まりだった。

夏休みで校内に人は少なく、玄関には僕達以外の人の気配は無かった。
君と二人きりになるために、こんな良い機会はそう無い。

「ちょっと話さない?ジュースでも奢るからさ」なんて自然に誘ったつもりだったけど、実際は早口で挙動不審な口調になってしまった。
しかし君は、いつもの笑顔で僕の誘いに応じてくれた。

初めはそれなりに会話もあったけれど、20分もしたら話題も尽きてきて、無言の時間の方が長くなっていた。
手に握ったコーラの中身は約一口分が残っていて、すっかりぬるくなり炭酸も抜けてしまっている。

けれど、これを飲みきってしまうと、この場に残っている理由が無くなってしまう気がして、最後の一口に口をつける勇気が出ない。

君の握るコーラもおそらく同じような状態なのだろう。
けれど、僕も君も最後の一口を飲み干そうとはしない。

君も僕と同じ気持ちでいてくれるのだろうか。

きっと同じ想いなはずなのに、不思議と二人とも次の言葉が出てこない。
しかし、何故か気まずいとは感じない静寂の空間。

しばらく続いた二人だけの空間に、セミの鳴く声だけが響いていた。

8/3/2025, 12:41:37 PM