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『終点』

《あと1年です。余命。》

真面目そうな先生に受けたこの言葉がじわじわと私の脳を駆け巡った。目の前にいる大切な人よりも鮮明に。

彼は、今も目の前のテレビを見てゲラゲラとお腹を抱えて笑っている。笑いすぎて泣きそうになっているくらいだ。
変な顔を見しては行けないとおもったからお茶汲むっていうテイで離れては見たけど。それにしても笑いすぎじゃ?ってぐらいに大爆笑。笑っている彼を見たら、この世界の全部が明るく見えて。愛おしくて。現実逃避なのかな、これ。

そんな感じでじっと見てたら目が合って、なによ?ってこっちに近づいてきた。
あたし、今上手く笑えてるかな。大丈夫かな。お茶をお盆に置いて(ついでにお茶菓子も)あたし達はまたテレビの液晶画面に目を向けた。

言わなきゃいけないよね。今日。でも、言いたくないな。どうせなら、もっと傷つけない方法で言いたかったな。矛盾してるけど、あたしは彼に声をかけた。いつも通り。

[ねぇ、]
「ん?どーした急に。」

お茶菓子をバクバク食べてる彼に、あたしはなるべく感情を持たないようにして言った。

[別れよ。]
「え、なんで?笑いすぎておかしくなった?」
[うぅん。本気。]
[好きな人が出来たの。キミよりも。だから、、別れよ]
「え、あ、ちょ」
[ここにある私のモノ、全部捨てていいから]
「ちょっとまってよ、」
私は、ぼやけた視界を服で拭った。顔を見られないように。絶対に、彼を見ないようにして。
[元気でね。]

またねって言いたかったな。閉じてしまった扉を背に、あたしは涙が止まらなかった。それでも前に進んだ。彼に見られてしまうから。
これが、あたし達の終点。

8/11/2024, 2:01:34 AM