味醂風調味料

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――初めまして、神様です。私の願いを叶えてください――


「は?」
部屋で寛ぐオレの目の前に突然現れた知らない誰か。
見た目は普通のサラリーマンみたいだ。スーツを着ている男性、営業で見かけるような、ホントに普通の。
その人物の第一声に思考停止、からの再起動まで数十秒。
そして発言に対する自分の返答はたったの一文字。

――私の願いを叶えてください――

「いや、何で?」
意志疎通が出来ない、そもそもするつもりはあるのかコイツ。
自分のことを神とか言ったけど、頭ヤバい奴?
その前にどうやって部屋に入ってきた?

――私の願いを叶えてください――

別に神の存在を否定するつもりは無いが、こんな野暮ったい神がいてたまるか。何者だコイツ。
扉には鍵が掛かっているし、窓も閉めてる。
そんな部屋のど真ん中に、全く気配なく音も立てずに現れた。
おまけにコイツの口は動いていない、なのに声は聞こえる。
今も繰り返しオレに願い続けてくる。

――私の願いを叶えてください――

あれか、エスパーってやつか。神様よりまだ信じられる。

「いや信じられねぇ」
神やエスパーの存在を信じてない、という話ではない。仮にホントに神だとしても、神を自称するエスパーだとしても、平々凡々な一般市民のオレより出来ることは多くあるはずだ。何でオレに請うんだよ神様エスパー様が、可笑しいだろ。
何か裏がある、そういう意味での信じられねぇ、だ。

いや待てよ、逆だよな。普通だったらオレの願いを聞いて叶えて、その対価か代償が法外に、って流れなら裏があると言える。
だが相手は願いを叶えてくれと言っている、どういうことだ?
意味分からん、何なんだコレ夢か。そういえば寝転がってたなオレ、なるほど夢か。
しかし夢なら意味不明なのも納得だな、もういいや。

「ああもう、何だよ願いって」

開き直って聞いてみれば、視線があちこちに、何だかもじもじし始めた。

――……しと………を…………に………さい――

「? 何て言った、聞こえねぇ」
さっきみたいにはっきり言ってくれ、急に何だよボソボソと。
泣きそうだし、顔も赤くな、いや待て嫌な予感がする。

――……私と、結婚を前提に、付き合ってください――

「はぁ!?」

予想外にも程がある内容に思わず声が裏返る。
いくら夢でも意味不明が過ぎる、オレの頭どうなってるの??
真っ赤な顔でソワソワとしながら、オレの返事を待っている自称神様。
恋する乙女みたいな顔で見ないで、いやトキメキとかじゃなくて困ってるの!
やめてオレはノーマルなの! 女の子が良いの!!
ちょっと待って寄ってくるな、近づくな!
開き直ってる場合じゃない、夢なら早く醒めて!!

――私の願いを叶えてください――

最初の台詞を言いながら、近づいてくる自称神様。
神様から助けてくれる奴っている??
混乱と困惑と、少しの恐怖からみっともないが思わず叫ぶ。


「だ、誰か助けてぇー!!」

――助けましょうか?――



お前からだよ、ばか野郎!!!

7/27/2023, 4:47:14 PM