hot eyes

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拓也(たくや)と秋(あき)がいるリビングの空気がピリッとひりつく。

今日、疲れていて互いに気遣えなかったのだろう。そんな日もある。どちらから言い始めたのかなんて覚えていない。

「あぁそうですかそうですか、つまり俺が悪いってことなんですね」
「その言い方何?いかにも私が全部悪いです、みたいなの。これだから本読んでない人は」
「何。本読んでたら偉いワケ?その割りには人の心情読み解くのヘタクソなんだな」
「ゲームばっかりしてる人には言われたくないね」
「は?あれ仕事なんだけど!!」
「そうだったねーごめんごめん」
「その言い方マジでッ...!!」

拓也は怒りで拳を震わせ、奥歯を噛み締める。一方、秋は腕を組んで冷静を装っている。どちらも譲らない状況で空気は最悪だった。

しかし秋の一言で空気が変わる。
「私達別れようか」
「は」
「だから、別れようって」
「なんで」
秋の突拍子もない発言に拓也は返す言葉を失う。秋はそのまま続ける。

「元々、性格だって趣味だって正反対だったもの。喧嘩することだって、こうなることだって分かってた。拓也だって無理して本読むのに付き合ってるよね?」
「別に、それは」
「いつも難しそうな顔して読んでるじゃない。それに一緒にゲームしてくれるような彼女の方が拓也としては楽しいでしょう?」
そこまで言うと、拓也は下を向いて黙ってしまった。秋は一つ溜め息をつき、続けて言う。
「今日はもう寝よう。私も疲れたの」

そう言うと秋は寝室の方へ体を向ける。次の瞬間、黙っていた拓也が秋の腕を掴む。
「...何、私もう寝たいのよ」
「.........なったの」
「何て?もう少しハッキリ言って」

「...俺のこと...嫌いに、なったの...?」

弱々しい声が秋に届く。
「...え?」
「なんで、勝手に決めるの...?なんで嫌いになったの...?俺、やなとこちゃんと直すから......別れたくないっ...」
拓也は秋にすがりつくように腕を掴む。

「何がやだったのっ...?俺...俺ちゃんと変わるからっ......本だっていっしょに読む...ゲーム嫌ならやめるから...だからっ...」
「っ...そういうところ!私は拓也に強制したくないし、拓也自身の趣味を楽しんでほしいのよ!だから私以外の別の人と恋人になった方が拓也だっていいじゃない!」
「やだ......秋といっしょじゃなきゃやだっ...ゲームなんか捨ててもいい...秋が嫌なら仕事だってかわる...ゲーム出来ても、仕事楽しくてもっ......秋がいなきゃやだぁっ...」
拓也はそういうと柄にもなくぼろぼろと泣き出した。
「な、にそれ」
秋はそんな拓也を見て、連れて泣き出す。
「っ...私、拓也がわからない…ずっと何考えてるかわからない......優しかったり、急に怖くなったり、どこか行こうとしたり...もうわからないよ...」
「俺も、わかんないっ...秋のこと、初めて会った時からわかんないよぉっ......だからっ、知りたかった、いっしょに居たかった、なの、にっ...」

秋は自分の目元を袖で拭うと、拓也の顔を見るために頬に触れる。拓也の涙は止めどなく秋の手の甲を伝っていく。
「っ......ごめっ...んなさ...」
秋の手を掴む拓也の手は少し震えていた。
「...ごめんね拓也。酷いことも言ったし、別れようは流石に言い過ぎたね。本当に、ごめん」
「俺も、酷いこと言って...ごめんなさい...」
秋は片手でギュッと拓也を抱き締める。拓也はそっと離し、秋の背中に手を回した。

「今日はもう寝ようか。拓也も疲れたよね」
そう言うと拓也は顔を上げて、こくりと頷いた。
「...秋、ごめん」
「うん、私もごめんね」

そう言うとやっと最悪だった空気が、ぐちゃぐちゃに絡まった糸がほどけたように緩りとした。

お題 「終わらせないで」
出演 秋 拓也

11/29/2024, 7:42:58 AM