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明日世界が終わるなら、まずは今日一日祈りを捧げよう。
世界が終わらないのに終わらなきゃいけなかった全ての愛しき過去の命へ。
教えてあげるんだ。もう大丈夫だよ、世界は終わるよ、これでもう誰かだけが見捨てられたりしないよって。もう安心して眠りにつけるんだよって。
そして世界の終わりと命の終わりを同じくできる、およそ考えついたこともないほどの僥倖に涙でもって感謝を。

そして。明日一日はお祭り騒ぎだ。
つい昨日まで崇められていたすべての偶像がただちに打ち捨てられ忘れ去られたこの世界で、生きる人の数だけ神が祭られる、最初で最後で最高の、正真正銘のお祭りだ!
まだ死にたくない人、欲の限りを尽くしたい人。
終わるって信じない人、誰かに会いたい人、来ない未来を嘆く人。
叫ぶ人、盗む人、殴る人、燃やす人。
約束を守れなかった人、涙を流す人、行方をくらます人、愛を伝える人(興醒めの冒涜者がよ!)。

全ての宗教が打ち切り漫画みたいに成就して、思想の松葉杖をついてきた人たちは両の足で泥まみれで走ることを思い出すだろう。
地平が暗転して、雲の内側に星空が見えて。私たち痴れたる人類共が光と呼ぶこともあたわないほどの、つまり、人類がどれほど驕ろうともわからないほどのもっと広い場所で、人類の細胞の筆記用具ごときじゃ足りないほどのずっと昔から光だったもの、それを見て私たちは目を失い地に膝をついて。まだ膝があったんだなあって、ちっぽけな誤差ほどの人生で今が一番膝のことを身近に感じるわけ!
さようなら、形而上学的な雲の上について述べてくれたありがたい人生諸哲学。さようなら、私たちの知ってる光について教えてくれた高邁なる先進諸科学!さようならさようなら!
最後に見えて、今後誰も二度と見ることのない光だけが、人類で共有された最後の教えになる。

火に仕えてきた人間が頭でだけわかっていた真理。
私も心のどこかで淡く夢見ていた炎。
それが今や一番痛みによって信じられて、やっと正しかったって証明される。
たったの一瞬、身を切る熱さが名残惜しくて愛おしくて。全部のうち全部、何もかもが終わることがこれほどまでに救いそのものなんだって。きっと燃えてみんなわかるはず。等しく終わるからみんなのことが好きでいられるって。

ああ、終わるから死ぬにすぎない私たちよ。
世界が終わらないのに一人ぼっちで終わっていった、蝋が溶け落ちる今日まで火を注いでくれた、望まず生まれ望まず死んでいった全ての命に、重ねて世界で最後にして最大の敬意を。
本当は、どんな形であれ生と運命の責をたった一人で全うしたあなたたちにこそ、この名誉ある終焉はふさわしかったのに。
ありがとう。本当に…。
同時代を生きたみんな、お疲れ様、ありがとう。みんなのことは嫌いだったけど、終わる定めを同じくする仲間たちに心からの親愛を。
存在してきた全ての存在の約束された安らかな眠りが、永劫に守られ続けますように。
おやすみなさい。ありがとう。

5/6/2024, 12:19:21 PM