当時を思い返して書き連ねてみた。
病室
そこは、入院治療を必要とする人の生活の空間。
時に喜怒哀楽の感情が交差する。
時として、正論も残酷な刃となりうる。
尊厳とは。
人権とは。
多くは、みな人生の先輩方が大半だ。
中には、若い人もいる。幼い子もいる。
介助や処置や検査、検温をしながら、言葉を交わす。
「もう、帰るの?お疲れさま。また、明日ね。」
病室
そこは、感情が飛び交う戦場。
スタッフもひとりの人間。
時に悩み、怒り、傷つき、励まし合い、歩み寄り、寄り添う、そんな学びの場。
ベビーの産声がフロアの廊下に響き渡った。
私は、血ガスを片手に急ぎ足で分娩室を出ると、
ちょうどエレベーターを待っていた御遺族の娘さんがこちらに気づき、
「…赤ちゃんの声を聴きながら旅立ったから、母は寂しくはなかったはず。最期まで賑やかよね。」とふわりと泣き笑いしてゆっくりと頭を下げて降りて行った。
私は、同意を表す頷きと大きく頭を下げることしか出来なかった。
瞬く間に涙目になっているのに気づく。
「また今度、今のを編み終えたら見てちょうだいね。」
脳裏に昨日の姿が鮮明に蘇ったから。
上手く言葉はかけられなかった。
悔しかった。
情けなかった。
どんな顔を見せてしまっただろうか。
本心では、しっかりと最期まで見送りたかった。
出来ることなら、もう少し、言葉を交わしたかった。
私は階段を一気に駆け下りた。
階段を駆け下りるまでに、気持ちを切り替えなくては、と。
病室
そこは、命の尊さに触れる場所。
私は、一生この感情を忘れたくはない。
8/2/2023, 3:23:22 PM