初音くろ

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今日のテーマ
《子供のままで》





ずっと子供のままでいられたらいいのに。
そうすれば、ずっとここに、あなたの隣にいられるのに。

兄と同い年の彼とは幼馴染みのような関係で。
彼にとって、わたしはきっと妹のような存在で。
その『妹みたいな』という免罪符があるおかげで、べったりくっついて甘えることが許されてる。

背が伸びて、筋肉がついて、どんどん大人の男の人のようになっていく体にドキドキを隠しながら飛びつく。
抱き留めてくれる腕の逞しさにときめきが止まらない。
でも、そんなことはおくびにも出さず、無邪気な子供を装う。
こんな日がいつまでも続けばいいのにと思いながら。


「は? 逆じゃない?」
「逆?」
「そこはむしろ『早く大人になりたい』って思うとこでしょ」
「だって大人になったら……」
「大人になったら、意識してもらえるかもよ? 単なる『友達の妹』から卒業すれば『恋人』になれるかもしれないし」

唯一わたしの恋心を知る親友が、にんまり口の端を持ち上げて言う。
まるで童話に出てくるチェシャ猫のよう。
わたしは「でも」と視線を落として唇を尖らせる。

「意識してなんてもらえないよ」
「年上って言ったって、たった2つじゃん」
「たった2つでも、向こうはもう中学生なんだよ。小学生なんて子供過ぎて相手にされるわけないじゃん」
「今はそうかもしれないけど、あたし達が中学に入る頃には向こうは3年なんだから別におかしくないでしょ」
「それまでにきっと彼女できてるよ」

だってあの人すっごく格好いいし。
同じクラスの女子とかからだってきっとすごく人気あるだろうし。
もしかしたら先輩とかからも注目されてるかもだし。
まだランドセル背負ってるわたしじゃ勝てるはずない。
それくらいなら妹ポジションを死守して、子供扱いされても今まで通りべたべたくっついていられた方がずっとマシ。

「恋は盲目ってほんとだったんだ」
「何が?」
「何でもない。少なくとも、うちのお姉ちゃんからはそういう話は聞いてないから安心しなって」
「うん……」

本当は全然安心なんかできないけど、でも今はまだ周りの女子達に彼の格好良さは知れ渡ってないようでホッとする。
彼に特別な人ができるまでは、単なる『友達の妹』で『妹みたいな子』として甘えることができるから。
だから彼に恋人ができるまでは、もう少しこのまま、子供のままで、側にいることを許してほしい。



それから3年と少し先、中学卒業間近の彼から告白され、自分がその恋人の座に収まる幸せな未来を、この頃はわたしままだ知らない。
あえて子供っぽく振る舞って無邪気を装ってたことも、胸に秘めてた恋心も、兄の密告によって全部全部彼にバレていたことも。





5/13/2023, 7:04:39 AM