作家志望の高校生

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「……ねぇ、どこ行くの?」
1LDKの狭い部屋を出ようとする彼の裾を引いた。ようやく絞り出した一言は、思ったよりもか細くて頼りない。
「……別に。」
素っ気ない彼の返事。いつも通りのはずなのに、今日はなぜだか、それが酷く不安を煽った。「行かないで」の五文字が言えたらどれだけ楽だっただろう。そんなちっぽけな勇気さえ出せないから、いつも僕は失ってばかりなのだ。 彼は、温度を失った体で帰ってきた。雨で濡れて、冷え固まった頬は、もう二度と言葉を紡いではくれない。少し泥で汚れて雨で濡れた、僕と彼の顔。この雨が止んだとき、そこに残る雫の跡は、涙なのか雨粒なのか。それは僕にも分からなかった。

テーマ:涙の跡

7/26/2025, 2:19:02 PM