るね

Open App

(前のお題で申し訳ないんですけど、タイミング悪くて上げられなかったのでそれを今日の分とさせてください。長めです。)

─────────────────

【カレンダー】


自室の壁に貼った、手書きのカレンダーを見てため息をつく。
僕が異世界に転移してから、明日でひと月。日本とは季節がかなり違うけど、経過した日数は合っているはずだ。
僕は本来ここに来るはずじゃなかった。幼馴染が召喚されたのに巻き込まれたのだ。

夢に出てきた女神は『予定外だった』『迷惑をかけた』と僕に詫びて、とある能力をくれた。僕がこの世界で暮らしていくために、少しでも快適に過ごせるようにということだったんだけど、その能力がどんなものかは幼馴染にも知られたらしい。

幼馴染は、僕が一緒でなければ旅なんかしないと言い出した。
気持ちはわかる。逆の立場ならきっと僕も同じことを言った。
幼馴染は土地を浄化する力を持つ聖者様だという。人が住めなくなった場所に出向いて綺麗な状態に戻すことが彼の使命だ。
我儘は通らないだろう。行くしかないのだ、彼も僕も。

僕が女神にもらった能力は、日本で住んでいたアパートの部屋を呼び出すというもの。実際に現れるのは建物そのものではなくて、玄関のドアだけ。それを開ければ僕が転移する前にいた部屋が女神の力で再現されている。
それも、女神の奇跡で電気が点くし水道も使えるという状態で。

僕が暮らしていた、大学に近いことと家賃が安いことが長所という築四十年のボロアパートがそっくりそのまま。六畳の和室が二部屋と四帖ほどの台所があって、バストイレ別。建物は古いけど、僕が入居する直前に水回りをリフォームしたとかで住みにくくはなかった。
再現された部屋にある消耗品は、食材だろうが洗剤だろうが、時間経過で勝手に補充されるというおまけ付き。

ガスも使えるから風呂に入れる。自炊はしていたから買い置きの食材も多少はある。醤油や味噌も、なんならコーヒーもポテチもあるし、食べても全部補充される。一応、客用の布団もある。
ただし、洗濯機置き場が外だったので、洗濯機は再現されていない。洗浄魔法があるから問題ないけど。

アパートのドアはどこにだって呼び出せるらしい。旅先でも野宿をしなくて済むわけだ。僕さえいれば。
そりゃあ、これから大変な旅をするという時にそんな能力の持ち主を連れていかないなんて選択肢はないだろう。

世界への影響を抑えたい女神によって、僕の部屋の中のものは持ち出しが制限されている。ペットボトルやビニール袋などのプラスチック類は特に厳重だ。でも、外には出せないものだって、僕が許可をすれば部屋に入って使うことができる。

この国の暦がどんなものかを教えてもらって自作したカレンダー。その日付には丸印がひとつある。
幼馴染が浄化の旅に出立する日だ。
僕も同行させられるだろう。嫌だとは言ってみたけど、断れそうにない。
準備に使える時間は残り半月ほど。その間にせめて魔法の練習をしておかなくては。自分の身を守るために。


9/12/2024, 1:56:11 PM