ふるきよき

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ひと通りの肌シゴトを終え深夜3時、脂臭いラーメン屋脇の外階段を上がって、看板の事切れてるのを直す気のない託児所に向かう。
先日まで派手な服を着せ込まないと見間違えるほどだったが、だんだんと毛深くなって奴と同じに右頬にだけえくぼのあることに気付いて、それからは遠目でもこの子が分かるようになった。

薬を飲む前の唯一起きていられる時間だから、懐いているとは言い難い我が子と未明まで束の間の親子を演る。
水浸しの酔い客を足蹴にする店々の軒先に、自分かと見粉う売女たちが男の首に柔らかな腕を回してどちらともなく顔を寄せ合う。華やぐ街の女衒たちもさすがにようやく手を引いて歩ける程度の子連れの女には手を出さないようだ。

時たま子を覗き込んでくる醜女の老婆に軽く会釈して、馴染みのトタン小屋の戸をくぐる。
この店には野次るマスターも客もいやしないから、大人用の椅子に座らせる。
私より先に野菜の食えるようになった我が子はサービスのオクラのおひたしを食べて少し笑った。

ママの房子さんは私のことを娘のようと言うが、私の本当の親は20くらいは下だろうね。
あたいが育てたから親に似てクズなのは気にすんなと房子さんばりの励ましが、今夜はヤケに沁みるなあ。

店の中は、母乳の頃から酒・煙草・薬キメてたからなとドッと笑う房子さんと、少し笑えない自分のふたりだけ。
娘だからって容赦しないと言い張る日もあれば、5回に1度くらいは房子さんは会計を受け取らない。
今日はそんな日だった。どういう日がそうなるのだろう。

子の手を引いてトタン小屋から表に出ると、陽が登って快晴。ネオンでは透き通って見えた遊び女の笑い皺が映えてよく見える。
空は雲が多めなくらいがちょうど良い。



物憂げな空

2/26/2024, 6:39:34 AM