窓から見える景色
季節は足早に別れを告げて、お彼岸を過ぎてから、あれほど強かった夏の光が弱まり涼やかな風を運んで来た。窓から見える景色もどこか寂しげな哀愁をおびた秋の空は、まるで忘却を誘うように佇む私の頬を撫でる。
この季節になると想出されることがある。
あれは、息子がまだ小学低学年の頃だった、息子のクラスメートの女の子が闘病の末に身罷られた、逆縁の小さな棺の置かれた葬儀に小さな息子の手を引いて参列させていただいた。
小さなクラスメートのお友達たちは小さな手を合わせて、その子水穂ちゃん(仮名)の旅立ちに手を合わせた。ご両親は精一杯気丈に振る舞い、子供たち一人ひとりに「今日は来てやってくれて有り難う」と頭を垂れていた、その姿が初秋の霧雨の中くっきりと浮かんでいた。
それから、暫くして水穂ちゃんの死も落ち着いたかと思っていた矢先、問題は起きた、同級生で、いちばんはじめに旅立ち、ご両親をも飛び越えて飛び立ってしまった水穂ちゃんの闘病を支えた、いちばん近くにいた親友咲ちゃん(仮名)が、まだ親友との別れが胸にズッシリとあった頃の話だ。
ある日、咲ちゃんは、まだ担任の先生が気遣って、そのままにしていた水穂ちゃんが、使っていた机の上に花瓶にお花を立てて置いていた。咲ちゃんは、何時も花瓶の水をかえていてくれていた、その日もそんなことをして、咲ちゃんはクラスメートに「昨日水穂ちゃんが、夢に出て来て有り難うって言われた」と話していた、それを聞いていたクラスの一軍気取り女子三人人が、「水穂ちゃんの呪いだ、怖い怖い」と囃し立てた、咲ちゃんは、まるで自分が水穂ちゃんに悪いことをしてしまったようだと思って泣き出してしまい、そして次の日から学校に来なくなってしまいました。この話題はその後、PTAを巻き込む大問題になったのでした。
咲ちゃんの父親は娘の優しさを傷つけたクラスの一軍気取り女子たちの謝罪とその親の謝罪を要求しました。
私は、ことの次第を息子からだいたい聞いていたので、「呪いだ!」と囃し立てた一軍気取り女子の親も直ぐに咲ちゃんに謝罪するだろうと思っていたら違った、何故だか保護者会が招集され、一軍気取り女子の母親三人は何が悪いのか分からない様子で、娘の「呪い」話は、教室に何時までも水穂ちゃんの机を置き花を飾ったりする行為が子供たちを怖がらせストレスになっているからだと開き直り、果ては水穂ちゃんを責めた。
開いた口が塞がらなかった、なるほど、鬼の子は鬼子か?背筋が寒くなった。
私は。思わず口をついて言葉が出た、「先生、こんなことで呼び出さないで下さい、先生が水穂ちゃんの死に、それを悼んだ優しい咲ちゃんに、この、ぶーぅ、ふーぅ、うーぅの三バカさんを連れて謝罪に行けば、済む話では?」と言ってしまったのだ(笑)
結局、一軍気取り女子は、親を伴い咲ちゃんの自宅に謝罪に行きました、何とか咲ちゃんはクラスに戻り、息子はじめクラスメートに守られクラスに馴染んで行きました。一軍気取り女子たちは、執念深い嫌がらせをしましたが、所詮、嫌らしい復讐心や妬みや承認欲求の捌け口では、一軍は圏外に落ちてしまいます。
鬼の子は鬼子、親が親なら、、子供は正直です、きっと親が「呪い」なんて言葉を平気で使い、死者に鞭打つことも平気で出来る人なのだろうと思いました。全くお里が知れる話としか言いようがない、どんなブランドで着飾っても心の卑しさは隠せないということか、それは、上面の行儀良さや、気取った所作や言葉よりも人の値打ちを表す、「大切なものは目に見え無い、形の無いものだから」
子は親を写す鏡、気をつけなければならないと自戒した出来事でした。
あれから、何年も経ち、その息子も親になり優しい咲ちゃんは看護師さんになられたそうだ。
息子たちと同い年の水穂ちゃんも、何歳だねと、窓から見える景色が、夏から秋に変わるこの季節になると、あの小さかった棺と、ご両親の背中を想出します、、、合掌
令和6年9月25日
心幸
9/25/2024, 2:48:15 PM