撫子

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 いつか誕生日に欲しいものはあるかと訪ねたとき、お調子者の君らしく、たまたまその時満月だったというだけの理由で、言いましたね。

 ──月に行きたい。

 それがきっかけのひとつだと素直に認めるのは正直悔しい気もするけれど、とにかく私は今天文台で働いています。
 その場の思いつきと気分で生きていた君は、ある日旅番組を見て気が向いたからと言って、私を放ってひとり旅などに出かけ、結果、旅先の不幸でずっと遠くに行ってしまいました。そしてなんの面白みもないプレゼントを用意していた私は、それを捨てることも出来ず、今も職場のデスクに置いています。
 君のことだから、思い付きで宇宙のどこかに漂っているんじゃないかと、気が気じゃありません。来世では、もう少し地に足のついたひととして生きることをオススメします。
 年を取らなくなって11度目の誕生日、おめでとう。

(君と出逢ってから私は)

5/6/2023, 1:39:51 AM