白糸馨月

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お題『Ring Ring...』

 知人から電話がかかってきた。仲はべつに良くも悪くもない。正直、何年も会ってなかったから「もしかして宗教の勧誘か、保険の営業かな?」と一瞬思ったが、聞かないことには用件はわからない。だから出た。
「もしもし」
 だが、電話の向こうから声が聞こえてくることはない。テレビの放送時間外の砂嵐みたいな音と、時折チリン、チリンといった鈴の音が聞こえるだけ。
「もしもし、もしもし!」
 用があるはずじゃないのか。しだいにいらだってくる。もう切ってやろうか、そう思った時。
「ツギハオマエダ……」
 そうくぐもった、ノイズ混じりの声が聞こえて電話が切れた。スマホを持つ手から力が抜け、床に落ちる。
 私は状況がつかめず、しばらく放心状態のままその場に座り込んで虚空を見つめていた。だが、いつまでもこうしてはいられない。
 私は知人と仲が良かった友人に電話をかける。幸い友人はすぐに出てくれた。
「もしもし!」
「もしもし、どうした?」
「昔、クラスで一緒だったAちゃんから電話がかかってきたんだけど、B、なにか知らない?」
 と聞くと、友人はしばらく黙り込んでしまった。やがて電話越しに息をつく音が聞こえる。
「あの子はね、先月亡くなったの」
「え……」
 突然の情報に言葉をなくした。自分に電話をかけてきた同級生がすでに亡くなっている。それが事実なら……次は、私。
(うそだうそだうそだうそだ、ありえないありえないありえないありえない)
 恐怖と動揺でしばらく私は言葉を発することができなかった。

1/9/2025, 4:03:14 AM