「レパートリー、増えた?」
演奏者くんが演奏を終えたあとにそう尋ねると、彼は頷いた。
「少し前から考えてた曲、人に聴かせられるレベルになったから」
「なるほど⋯⋯」
生み出してるのだろう、きっと。すごいな、なんて思った。
ボクはピアノ弾けないからすごいことのように感じられる。
「うん、じゃあそろそろ僕は家に帰ろうかな」
「ん〜」
ボクも住人の見回りをしなきゃいけない。そろそろいい頃合い、だろう。
「じゃあね、演奏者くん」
そう言うと演奏者くんはいつものように口を開こうとして、少し立ち止まってから思いついたように言った。
「『また明日』、権力者」
そのまま家に入っていく。
『明日』なんてボクらには測れない基準なのに当然のように言ってのけた彼に、ボクは何にも返せなかった。
5/22/2024, 2:38:00 PM