NoName

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「どんな時が幸せ?……うーん、そうだなあ。押しつけてる時」 
「押しつけてる?」 
「例えば旦那を仕事に送り出すときに、かばんのサイドポケットに折りたたみ傘をいれとくの。それでお昼過ぎににわか雨降った時とか」
「なにそれ?気付いてくれなかったらどーするのよ」
「彼は必ず気付いてくれる。そしてこんな私と結婚した俺はなんて幸せ者なんだって言ってくれるの」
「はいはい、わかった。わかった」

  

 帰宅すると玄関に彼の靴があった。……もう帰ってるのか。シュークローゼットを開けると 折りたたみ傘とコンビニで買ったような簡易傘が並べて置いてあった。

「ただいまー」
「おー、お帰り。傘入れたんなら言ってよねえ。買っちゃったじゃん」
 彼は眉を八の字にして相好を崩した。 
「ごめーん。LINEのひとつでも送ればよかったねえ。ご飯は?」
「もーペコペコ」
「オーケー今から作るから待っててぇ」
 犬みたいな顔が妙に愛おしかった。
 

 あぁ、私の幸せはいつ来るのだろうか――

1/5/2026, 8:33:27 AM