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拝啓
春の気配もいよいよ濃くなり、心浮き立つ折柄、貴方はいかがお過ごしでしょうか。

さて、近頃の私と申しますと、小説を読み漁る日々を送っております。
本日手に取りました一冊の中に、創世記の一節が引かれておりましたの。記されていたのは別の物語にございましたけれど、創世記と申せば、やはりアダムとイヴのことが思い浮かびますよね。

楽園にただ二人きり。
それは、いかなる心持ちでございましょうか。
二人ぼっちが当たり前の世界にあっては、恋慕の情もまた、互いにのみ向けられるほかございません。悋気に胸を焦がすこともなければ、他の誰かへ心移ろうことも叶わぬのでしょう。

それはそれで、どこか味気なく思えてしまうのは、私が浅はかゆえでございましょうか。
何でも恋の話へと結びつけてしまう私を、どうぞおかしな者だとお笑いくださいませ。

けれどもし、貴方と二人ぼっちになってしまったならば…それもまた、ささやかな楽しみを見出せるのかもしれません。

とは言っても、やはり私は、貴方と共に他愛もない語らいに興じ、折々の美しい景色を眺めながら歩むひとときが、何よりも愛おしく感じるのでございます。
人の往き交う中で、離れぬようにと手を引いてくださるあの温もりも、駅の雑踏の中より貴方のお姿を見つける刹那も、その一つ一つが、かけがえのない宝なのでございます。

ゆえに、やはり二人ぼっちというのは、少しばかり寂しく感じますね。
けれども、貴方と共に生きてゆくこと、それ自体は、何よりの望みでございます。

本日はつい取り留めもなく筆を進めてしまいました。
日々のささやかな時を大切に。
その思いを胸に、この便りを結ばせていただきます。
敬具

3/21/2026, 11:44:37 AM