風が運ぶもの
大きく息を吸う しおあじがした
絶えることない潮の匂い海風だ
浜に近づくにつれ
磯のにおいが強くなる
魚や海藻の干されたにおい
牡蠣や真珠貝の残骸
ロープに絡まる生き物たち
それらは照りつける陽射しで一層濃くなり
胸元までにおいが立ち昇る 一瞬息が詰まる
おまえと共にここにある事を忘れるな
と主張してくる
ベタつく肌
あーうっとうしい
小さな海町 産業のない非力さを感じていた
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漁師町を後にし都会の喧騒に包まれた半世紀
流行という風に乗ってさえいれば
軽やかでいられた
自由で何にも縛られない
刹那的に生きてきた
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ところがご機嫌な日々は終わりを迎え
情報という風に翻弄される今
老いた身には もはや嵐に思える
地に足つかない違和感が
大地と共に生きる人にこそ幸せがあると
今からでも遅くないと誘いかけてくる
故郷へいってみよう
防波堤越しに海を臨む果てた地へ
見覚えのある景色を訪ね
自分が今何を望んでいるのか確かめよう
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中也の一節が頭をよぎる
おまえはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云(い)う
『東風が吹いたら天気が悪なるぞー
皆 気いつけーやー』
海風に負けない漁師の大声は
自信に満ちていまも温かいだろうか
3/7/2025, 2:43:33 AM