語り部シルヴァ

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『雨の香り、涙の跡』

早朝5時。この時間は人が通ることはなく、
朝早くに出勤か夜通しで走る車しか見かけない。
その空間は僕にとっては散歩するのに
うってつけというわけだ。

それに今日は雨。晴れた空が見れないのが残念だけど
なおのこと人通りが減るから僕は結構好きだ。
ズボンの裾が濡れているが足取りが軽くなる。
傘に弾ける雨粒も一定のリズムを刻む。
楽しいなあ...そう思う中、
元気な話し声が雨音を貫いて耳に響く。

(誰だ...?こんな早朝から...)
傘を少し持上げ辺りを見回すと
元気な話し声を出している人が歩いてくる。
向かいから歩いてきた人はいつも世話になっている先輩だ。
僕の...憧れの人。

(先輩だ!早朝から会えるなんてラッキー....)
そう喜んでいたのも束の間、
上がっていた口角は徐々に落ちていく。
その先輩の姿は日常で絶対見ない寝巻きのような服、
ボサボサの髪、おそらく化粧をしていない...
そして何よりやたらと距離感の近い男が隣で歩いている。

2人とも楽しそうで、幸せそうだ。
(...)
傘を下げて先輩にバレないように早足で通り抜ける。

こんなとこで僕の心のモヤモヤが
静かになくなってしまうなんて。
しかも雨の勢いが強まってきた。でも良かった。
これなら鼻水をすすっても気づかれなさそうだから。

語り部シルヴァ

6/19/2025, 10:53:44 AM