かたいなか

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最近最近、都内某所のおはなしです。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益たっぷりのお餅を作って売って、
そうして、人間の世界を勉強しておるのでした。

ところで最近の東京は、子狐の体温にせまる37℃だの、38℃だの、本当に参ってしまいます。
こういうときは、冷やし餅、冷やし大福、それからぜんざいなんかが好まれます。
今日は本物の魔女のおばあさんが店主をしている喫茶店にお呼ばれしたので、
とびっきりのお餅を葛のツルのカゴに詰めて、
とってって、ちってって!ご機嫌で出張販売です。

「こんにちは、こんにちは!」
コンコン子狐、しっかり人間に化けて、まずは魔女のおばあさんに、ごあいさつ。
「まいど、まいど」
コンコン子狐、しっかり狐耳も狐尻尾も隠して、次は魔女の使い魔猫に、ごあいさつ。

喫茶店では3人1組の女性客が、
ひとりは軽い嫉妬でふてくされて、
もうひとりは最後のひとりにメイク指導。
最後のひとりは自分の変身具合に感動中。

「保湿はねぇ、大事だけどー、油分も気を配るぅ」
「はい……はいッ、気を配ります……!」

「ルリビタキ部長さんのコラボ概念コスメはねぇ、来年の方向性で迷ってるからぁ、 えーとね、
ひとまず、高葉井ちゃんに試作3種類あげるぅ。
コンセプトは『青い風』だよ〜。付けたげる」
「光栄です、光栄です……!」

「店で気まぐれに開催している、メイク教室よ」
よく冷えた子狐のぜんざいに、レモンの皮をけずって入れる魔女のおばあさんが言いました。
「どうしても、会う前に身だしなみを整えたいってお客さんが来ていてね。急ぎで今日、開いたの」

そしたら講師の親友さん、お客さんに、ヤキモチ焼いちゃったみたいね。
穏やかに笑う魔女のおばあさんが、レモンピールとあんこをよく混ぜて、ぜんざいを、ひとくち。
「んん。サッパリ。美味しいわ」
あんこの優しい甘味の奥に、
レモンの青い風味が、まさしくお題の「青い風」のような酸味を吹かせます。
「子狐ちゃんも、ほら、どうぞ」

「すっぱい!すっぱい!」
ギャッ!ギャギャッ!
子狐はレモンのすっぱさにビックリ!
まだまだ子どもだから、というより、削ったレモンピールが運悪く、一気に子狐の舌にビタッ!
張り付いてしまったのが原因のようです。
「キツネ、これ、やだ、すっぱい!」

子供の子狐には、運悪く、レモンピールが少々強風に当たり過ぎた様子。
「おばちゃん、あまいミルク、おいしいミルク、ちょーだい、すっぱい、すっぱい!」
レモンに子どもながらの威嚇をして、店主に甘えて、子狐には青い風より白の無風。
「ミルク、おいしい、おいしい」
魔女のおばあさんは子狐が、ごくごくミルクを飲み干すのを、優しく見守っておったとさ。

7/5/2025, 5:39:08 AM