極解の魔法使い

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【お題】今日だけ許して
※クソ長い上に保存し忘れてた所為による1日遅れ提出。
すみません┏○┓

「・・・・・ヒデェー顔だな」
と、書類の提出先である腐れ縁の友人に言われる。
「体力無いの知ってるだろ?流石に疲れたんだ」
と苦笑いしながら言う。
実際、間違いでは無いので嘘は言っていない。
「それもあるだろうが・・・・・それだけじゃないだろう?」
と呆れ顔で言われる。
「・・・・・慣れないといけないのは分かってんだがなぁ」
「バカタレ。慣れるな」
と、ピシャリと斬り捨てる様に言われる。
「・・・・・そう言う事件を担当するのが俺なんだけど?」
「それでもだ。それに、俺だって殺人事件を目にしてるが慣れる事なんて無い」
と言いつつ
「まあ、お前の場合は【慣れてしまう】んだろうが」
と半眼で俺を見る。
「まあね・・・・・《遺体が残ってるだけ、まだマシ》って思っちまうな」
と苦笑いしながら言う。
余りにも《基準》が違うから、慣れてしまってはいけない事でも、もう慣れてしまった。
「・・・・・そうかもな」
「それに、今回の様な事件もまだマシだ。こうやって、公的記録に残るんだから・・・・・いや、表立って残るわけじゃないけれどもさ。《残る》って事が大事だし」
と、両肩を竦めつつ俺は言う。
実際、今回は事件として記録に残るだけマシだ。
俺が対応する事件と言うのは、8割は当事者が死んで記録に残らない。
【知らない内に起きて、知らない内に消えて行く】
そんな特殊な事件だ。
残りの2割は、例え生きてたとしても《喋れない》なんて事もざらで。
また、生きて解決したとしてもそれを表立って残る事は無い。
何せ余りにもおぞましい事件で、残す事も本来ははばかられる内容だからだ。
それでも、今、俺と言う捜査官が居る事でその2割の事件がこうして記録され始めている。
少なくとも、俺と言う人間だけがこの手の事件に手が伸びている間はそれが大事な事になる。
少しでも生存率を上げる為の、囁かな抵抗だと信じ
「でも、お前一人が背負う事でもない」
と、俺の思考中を割って言われる。
「・・・・・ただただ辛いし余計疲れるだけだぞ?一課長殿」
「確かにな。ただでさえお前と言う問題児や一課の個性的な奴らや先輩方に常日頃、頭を抱えてるよ俺は」
「でもそれを取りまとめてるお前は本当に偉いよ、マジで」
コレは本心。例え一課を取りまとめられたとしても、俺を御せる人間なんて両親や俺をよく知る数少ない人達なんだから、本当によくやっていると思う。
「そうかい。なら、追加だ。今日は俺の視界の範囲内で休め。そこのソファーを使ってもイイ」
と、来客用の椅子を指した。
「え、普段めっちゃ嫌がるじゃん・・・・・」
「無許可な上に俺を起こさない、声をかけないのが悪いんだろうが」
「ちゃんと休ませてるだけじゃんか・・・・・過労死すんぞ」
と、あーだこうだと少しの間、高校生の時みたいにグダる。
「はァ・・・・・わかった、なら俺も休む」
「お、珍しい」
「取り敢えずそこに座れ」
「はいはい」
と、言われた通りに座る。
普段ストイックを地で行く腐れ縁が休むと言うので、『雑談しながら休むのかな』なーんて思っていた。が、直ぐに素直に言われたとおりに座った事を後悔する。
腐れ縁は片手に書類を持ったまま俺の隣に座って、直ぐに俺の肩に頭を預けた。
「・・・・・何をしておいでで?」
「言ったろ、俺も休むって」
「いや、その書類今提出した奴」
「書類の不備が無いか確認している間はお前は此処で休め」
「お前は?」
「添削位なら休憩しながらでもできる」
「それは休憩とは言わなく無い???」
「俺は添削も休憩の内に入るってだけだ」
と、テコでも動かない。
失敗した、コレは俺が本当に休まないと延々とこのまま続ける腹積もりだ。
いや、てか、職場でコレは事故になりかねないのでは?と、普段感じない何かで、一抹の不安すら覚える。
ただでさえ他人に寄りかかる事が無い腐れ縁のコイツが寄りかかってくるのを捜査一課の人達に見られたらどうなる事になるか・・・・・想像もしたくないと言うか、想像出来ない。色んな意味で。
「・・・・・わかった、わかりました。なら、今日だけ許して下さいよ?」
と両手を上げながら言って、俺はヤケクソ気味に横になった。
「わかっているなら宜しい」
と、ただでさえ顔が良いコイツが笑顔で言うもんだから、抵抗する気は失せた。
「はァ・・・・・」
と、嫌がらせ気味に溜息を吐く。
しかし、疲れていたのは事実で。
否・・・・・とても、疲れた。
余りにも醜い惨状だった事もある。
余りにも酷い事件だった事もある。
慣れる物でも無いのだが、
慣れないといけないのに、と言う焦燥感もあって。
それでも、なんとかして手続きを終わらせた。
その所為か、直ぐに俺は眠りに落ちてしまう。




「・・・・・今日だけ許してやるさ」
「だから、起きたらいつもの通りに笑ってろよ」
と、腐れ縁が呟いたのを、膝の上で寝落ちした彼は知らない。

By ある事件解決後の、2人の刑事の束の間の話より

10/6/2025, 2:56:35 AM