いろ

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【愛を注いで】

 真っ黒い海を眺めてぼんやりと佇む君の隣に、無言で腰を下ろす。表情の変わりにくい君は周囲から……自分の家族からすらも心がない化け物だなんて怯えられているけれど、僕はそうは思わなかった。
 観察していればわかる。君にだって周囲の心無い言葉に傷つくほどに無垢な情緒があって、真っ青な大海原を染める美しい夕焼けに喜ぶ感情があって、期待外れの曇天に落ち込む心があるのだと。
「明日、午前中は雨みたいだけど、夕方には晴れるらしいよ」
 墨でも撒いたような曇天の海を親の仇でも睨むみたいに見つめる君へと、なるべく優しく語りかけた。きっとまた無意味な陰口に傷ついたのだろう君を慰めるように、その背をポンポンと叩いてやる。
 本当は、僕のほうが君よりもよっぽど化け物なんだ。擬態が無駄に上手いだけで、感情とか心とか本当は何一つわかっていない。本で読んで学んだそれを、上っ面でなぞっているだけ。
 それでも。たとえ紛い物の愛でも、渇いた君の器に注ぎ続けていれば、やがてそれは本物になるんじゃないか。そんな利己的な期待で、僕は今日も君の隣に寄り添うのだ。

12/13/2023, 9:54:10 PM