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 聞きたい!と言った数分前の私を怒りたい。

 異国の怪談話を聞かなければ良かったとぬいぐるみを抱き締めたまま、縫い付けられたように動けない。妖怪とか狸や狐の話の類いかと思っていたら…

 梅雨特有のじめじめした不快感にどろっとした愛憎が加わった後味が悪く陰鬱な話だった。今まで流れ落ちる滝みたいと思ってた特徴の木が一役買っていて見方が180度すっかり変わってしまった。まだ彷徨っていると付け加えられて…。もうあの国の柳の下は通りたくない。

「怖かった?って聞くまでもないか」
 怪談の発表者である彼は、未だに余韻に捕まっている私を見る。物理的に痛いとか高いところから飛び降りるとか、躊躇いはするけどそれくらいなら怖がることは少なくて

「実体のないものには『怖がり』なの。見えないのは…苦手」
 感情もそう。見えないから人とコミュニケーションをとる時はどう思われているか怖い。怨念にでもくっつかれたら対処できずに弱っていきそう…。

「俺も形のないものとは戦えないから嫌なんだ」 
「…専門職に頼まずに武力で対抗するつもり?」
 撃退方法が物理攻撃だなんて聞いていた話とジャンルが違う。清々しいくらいの彼らしい返しにぬいぐるみが転がっていった。

「戦えるならさ、1度くらい戦ってみたいと思わない?」
「全然…!怖がらせた罰としてミルクティーをいれて隣に来てくれないと…私がお化けになりそう」
「りょーかい。君のために特製のミルクティーをお持ちしよう」
「ミルク多め!飲み頃で、クッキーもあって怖いから早く戻って来てくれると良いなぁ…」
「はいはい」

 『怖がり』だからって悪い訳ではない。それを理由にちょっとだけ我が儘になれたりする。

3/17/2023, 3:32:36 AM