生まれた瞬間から今まで、私たちはいつでも一緒だった。
お揃いの服を着て、同じご飯を食べて、肩を並べて道を歩く。どんなに辛い事があったとしても、君がいればへっちゃらだった。水よりも濃い絆が、私と君を繋いでいたから。たったひとりの双子同士だから。
だけどいつからだろう、君との違いを感じる様になったのは。ぼろぼろになったランドセルを捨て、男女違った制服を纏うようになった頃かな。歩幅が変わった。背丈も離れた。君は甘いものが好きで、私は辛いものが好き。食べ物の嗜好も変わった。私以外の女の子と話すようになって、過ごす時間も少なくなった。
似ているけれど、同じじゃない。そんな些細な変化が、私を苦しめる。いっそ同じ性別に生まれたかった。同じ胚から分かたれたかった。そうすれば君ともっと一緒であれたはず。そんなどうしようも無い願いが、私を苛む。
「どうしよう――。僕、母さんを……」
だからどれほど嬉しかったか。電話口、憔悴しきった君の声を聞いたあの時の気持ちを、君にも教えてあげたいくらいだ。
けばけばしくてずる賢い、魔女みたいな女。優しかったお父さんがいなくなったのはお前のせいだと罵る、母親だったもの。身体への暴力はそれほどなかったけど、言葉の暴力は雨のように浴びせられたっけ。
アイツも君が大好きだった。お父さんに似てるから、私の事は大嫌いだった。お父さんに似てるから。ああ、こんなところもそっくりなのに全然違うなんて。へんなの。
今はどこかに逃げようと君を誘った。目指すは二人の秘密基地。昔みつけた町外れの廃屋。
小さい頃とは反対に、君の手を引いて夕暮れの薄暗い道を走っていく、ぽつぽつと視界に緑が増え始めたころ、記憶よりも一層ぼろぼろになった小屋にたどり着いた。
何だか昔いっしょに読んだ童話に似てる。森の奥に捨てられて、お菓子の家に迷いこんだ兄妹のお話。今の私たちにあるのは飲みかけのお茶と、鞄の奥に隠れてた期限切れの湿気ったクッキーが一枚きりだけど。
廃屋の中、 分け合ったクッキーを食べながら君の話を聞いた。私への態度について言い合いになった末に、アイツは君にはさみを向けたらしい。脅しのつもりだったのだろう。私にとっては日常茶飯事だから、嫌でもわかる。
でも君は違った。自分を守ろうと、じりじり近づくアイツの身体を咄嗟に押しのけた。それで足を滑らせて、運悪く持っていたハサミがアイツの身体に深々と刺さった。とめどなく出てくる血に慄き気絶し、目覚めた時にはもう手遅れだったとか。
血の気の引いた顔で震えながら語る。そんな君がとても可哀想で、悲しむふりをしながら緩みかけた口元を両手で覆った。
暫くして、君は疲れて眠ってしまった。小さい頃と全く変わらない少し困った寝顔が愛しくて、隣に寝そべり頬を撫でる。
実はね、君に言ってないことがあるんだ。君が気絶した後に、まだ息のあったアイツにとどめを刺したのは私。だってそうでしょう? 悪い魔女を竈に放り込むのは妹の役目だもの。それにたった一人の双子同士、分かち合わなきゃ不公平じゃない。
分かってる。これはめでたしめでたしで終わる童話じゃない。明日になれば儚い夢は醒めて、私は報いを受けるだろう。
それでも今だけは、私と君の二人ぼっち、ここで静かに眠らせて、あの頃のように傍にいさせて。そんなことを考えながら、私は目を閉じる。
その日見たのは幸せな夢。鏡写しの私と君が、同じ制服を着て笑っていた。
【二人ぼっち/夢が醒める前に】
3/22/2023, 9:52:38 AM