しぎい

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向かいの革張りのソファに座っている男が、私の一挙一動に目を光らせていた。おかげで瞬きをするのにもいちいち迷って、少し眼球が乾燥している。

「恨むんなら、軽々しく保証書にサインした過去の自分を恨むんだな」

それはもうすでにした。頭の中でもう何百回はタコ殴りにした。

「まずあんた、保険に入ってないな。保険をかける。たんまりとな」
「え。つまりそれって、死ねってこと……」

目に見えてうろたえだすと、男は面倒臭そうに手を振った。この手の反応はもう見飽きているのだろう。

「大丈夫。一人で死ぬのは色々と手間がかかるだろうから、手伝ってやるよ」
「な、なにを……?」
「なにをって、そんなの決まってるじゃねえか。その道の業者を雇ったりだとか、諸々の書類捏造する専門家雇ったりだとか」

ちなみに費用は会社持ちだ、と誇らしげに付け加えた男は、懐から取り出した煙草をくわえた。

「安くはない。決して安くはないけど、困ってる人をほっとけないだろう」

煙草をくわえたまま口を釣り上げる。だが男の口ぶりは、どうにもやるせないという感じだ。

(人助け言うんなら、保証人の借金は全部チャラにしてくれよ)

もしかしたら自分でも気が付かないうちに、軽蔑の目つきで見ていたかもしれない。
すると私の浅い考えを読み取ったように、男が「あのね」と急にこちらを見た。黒目がさらに不気味に光る。

「借主がウチから金を借りてる記録だけは消えないんだよ。たとえ元の借金主が逃げようと、だったら保証人のあんたに払ってもらうだけ。今のあなたに人権はないぜ」

ほら、証拠としてここにきっちりあなたのサインが残ってますからね。

底知れない笑みを浮かべた男が書類片手に迫ってくる。

2/26/2025, 3:01:00 PM