「ごめんね」、と謝るお前が嫌いだった。
お前が殊勝に謝る。
その行為が何より嫌いだった。
こんな謝り方をする時は、お前は大抵ろくな事を言わない。
『何があった?』
『どうしたんだ?』
『助けが必要か?』
何一つ。何一つ、お前は頷かない。口を開かない。
その度に自分自身の無力に打ちのめされる。
頼ってもらえない事よりも。お前の苦しみを理解して、無理矢理にでも手を伸ばしてやれない己に、心底嫌気がさすのだ。
『大丈夫だよ。大丈夫』
『けど』
『ごめんね』
頼むから。
頼むから。
そんな顔で、笑わないでくれ。
足りないのなら満たせるまで努力する。
届かないのなら掴めるまで手を伸ばす。
だから、諦めてそんな顔で笑う前に、この手に気付いてはくれないだろうか。前と上だけ見ていろなんて言わない。お前が下を見たって、後ろを向いたって、尊敬こそすれ失望なんてするはずもない。
だから。どうか。
差し出したこの手に縋ってはくれないだろうか。
【題:「ごめんね」】
5/30/2024, 6:09:15 AM