夜間

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星空の下で



「九条先生、……今日も、コーヒーいただいてもいいですか?」

「……いいですよ。もちろん」

時刻は深夜二時をまわっている。なのに、どうして僕は九条先生のコーヒーを飲みたがっているのだろう。

テントからゆっくりと立ち上がり、いつものように火をつけ豆を煎る。その赤い炎が、僕の目に焼き付く。九条先生は相変わらず、疲れている形相をしている。

「……烏丸先生」

「はい。なんでしょう」

「今日は、空は見ましたか?」

「あ、いえ……見てない、です」

そう言われた瞬間に、空を見上げる。今日は天気が良かったのか、星が眩しいほどに輝いて見える。

九条先生の発言のお陰で、僕は下を見て歩いていることに気づいた。

九条先生はヤクザや訳ありな人達だけを弁護する。それに怖気付いてしまったのか、僕は怯えながら生活しているのか。

「烏丸先生。なにか、困り事でもありましたか?」

「…………」

「……私たちはなぜ、地球という惑星から星を見ているのでしょうか」

九条先生はそう言うと、僕にコーヒーを渡した。感謝をして一杯いただく。柔らかく優しい風味が、口いっぱいに広がった。

「そりゃあ、僕たちが地球で暮らしてるから……」

「そうですね。それが正しい答えです。ですが、それならば宇宙飛行士はなぜ、宇宙に旅立ち星空を見ているのですか?」

「は、はあ?……宇宙飛行士は星空を見るために宇宙に行ったわけではないと思いますけど……」

「そうですか……」

なんなんだこの人。一体僕に、どんな言葉を吐いて欲しいと思っているんだ?

「あの九条先生……つまり、どういうことですか?」

九条先生は右手にコーヒーを持ちながら、空を見上げる。九条先生の瞳に入ってくる星空の光は、僕たちが星空の下、つまり地球で暮らしていることをさらに分からせてくるようだった。

「規模を大きくしても、疑問というのは同じ大きさなんです。今私が抱いている疑問も、烏丸先生が抱いているであろう疑問も、疑問という点で見れば大差はない」

僕が今抱いている疑問。それは、僕でも分からない。だが、明らかに心にざわつきがあるのは確かだ。

「でもね烏丸先生。そう言って他の人と同等だろと笑ってくる人は、許してはいけない」

「……」

「私に対しての疑問ならば申し訳ないです。それはお答えすることは出来ないかもしれない」

「…………元々答える気ないでしょ」

キョトンとした顔で九条先生は僕を見つめた。その後、父親のような優しい顔で笑った。

「そうですね。確かに」

「……肯定しないでください」

僕は星空を見ながら、また一杯、コーヒーを口に入れる。

4/5/2026, 4:55:32 PM