花筏

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【眩しくて】
今のように電気がない時代、夜になると人々は油に芯を浸し、そこに火をつけ明かりを灯しておりました。
冬になれば夜も長く、寒くもなりますから、火鉢の炭に行灯の油にと、何かと物入りになってきてしまい、貧しい家はほとほと困り果てておりました。
女「ああ、油がもうこんだけしか残ってないよ。一体この冬をどう越せって言うのさあんた。」
男「ああん?しょうがねぇだろ。油も炭も値が上がっちまってんだ。」
女「しょうがないね。あんたはちゃんと仕事しとくれ。あたしは油を何とか値切って買ってきますから」
女「しかしどうしたもんかねぇ。どこもかしこも売り切れだの値は下げられないだのケチ臭い」
商人「よぅ、おかみさん。油をお探しかい?ちょうどいいのがあるよ。」
女「なんだい?見せとくれ」
商人「こいつはいつまでたっても消えず、普通の行灯よりも明るさが段違いなんだ。どうだい?明るいだろ?おかみさん、どうやら油に困ってそうだったんでねぇ。どうだい?ひとつ1000文で売るよ」
女「1000文?ちょいと高すぎるよ。600文なら考えようかね。」
商人「そうかい。ちょいと厳しいがいいだろう。600文で手を打とう。毎度あり」
女「さて、何とか明かりは手に入ったけど、これで年越しまで持つかねぇ。どうだ、ひとつつけてみよう」
女「こりゃあ、明るい!しかも油もたっぷりあるねぇ。これはいい買い物をした。あの人にも後で見せよう」
男「おーい、帰ったぞう」
女「おかえりんさい、行灯買ってきましたよ。なんでも特別なもんで」
男「特別?行灯に特別も何もあるもんかい。どれ、いっちょ…」
男「眩し!おいあんたこりゃ眩しすぎるよ、こんなんじゃ夜つけたら近所迷惑だぞ!」
女「ありゃ、昼つけた時はそんなにだったんだけどねぇ。だからあの商人も値切りにイチャモンつけなかったんだね。こりゃ面倒なの掴まされたよ」
男「まぁ、買っちまったもんはしょうがねぇ。待っからな正月よか明るい方がいいだろう」
男「しっかし明るすぎるな。どれ、布でもかぶせてみるか。」
女「あ、お前さんそれは…」
チリヂリ、ボっ
男「ああ!」
女「ほら!早く火を消して!」

ジュッ

女「全く、何をやってるんだい」
男「すまねぇ。しっかしこいつはダメだなぁ。眩しいだけで、何の役にもたちゃしない」
女「いい買い物をしたと思ったんだけどねぇ、結局要らん骨董品掴まされただけかい」
男「俺達にはもうそりゃあ明るい火の車があるしな」

7/31/2025, 3:23:20 PM