雫は落ちるものなのです。
だから「沈く」と言うでしょう。
「何見てるの?」
池の前にしゃがみ込む子に声をかける。彼の名前は……名前は何だっけ。覚えてないけど日本人で俺の友達。画家の親とイタリアに渡ってきたらしい。
「雨が」
「雨?」
「はい。池の中に沈んでいったので」
彼はかなり芸術家気質だった。不思議な雰囲気があって、近寄りがたくて、俺はどうも苦手だった。
それに
「――君」
「なーに?」
彼は
「わ」
俺のことが嫌いだったと思う。
ばしゃん、と飛沫があがる。彼の言う雨の雫はいま跳ねただろうか。
待てど暮らせど彼は上がってこなかった。俺が思っているよりずっと深かったらしいその湖は、後に心霊スポットだと囃し立てられた。
ほんの意地悪のつもりだった。そんな俺の幼さが彼を殺したんだと思う。
雨の雫よりも深く沈んだ彼が、二度と這い上がってこないことを願う。
【雫】2024/04/21
雑駁
4/21/2024, 1:49:02 PM