わをん

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『二人ぼっち』

海の向こうのきらびやかな祭典で世界的な賞を与えられた映画作品が近所の映画館でも上映されることになった。予告動画をたまたま見かけて興味があったのと、ネットの記事で映画を作った監督や俳優たちが喜びを爆発させていたのを見ていたので会社帰りに喜び勇んで映画館に行ってチケットを買い、レイトショーの上映を待った。私と同じように上映を心待ちにしていたひとがたくさんいるのだろうなと期待していたが、さりげなく辺りを見回してみると場内にいるのは私ともう一人だけ。照明が暗くなっていく。
世界的な賞を与えられた作品に周りの人たちはあまり興味がないのかと落胆したが、やがてそんなことはどうでもよくなるほどにスクリーンに釘付けになり夢中になっていった。私ともう一人のお客さんはエンドロールを最初から最後まで見届け、掃除をするスタッフさんに追い立てられるようにロビーに向かい、売店で列を作ってパンフレットを買った。出口に向かうエスカレーターではふたりとも無言だったけれど、言葉に表せない親近感をひしひしと感じ合っていたように思う。透明なビニール袋に入った大きなパンフレットはふたりの手元に揺れてそれぞれの家路を進んでいった。

3/22/2024, 3:38:27 AM