駄作製造機

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【さよならは言わないで】

『ゔえええええん!!うわあああああん!』
『ほらほら、そんなに泣くなよ。目ぇ腫れるぞ?』

神社の境内の近くで泣きじゃくる少年と、それを慰める青年。
心なしか、青年の目にも哀愁が漂っている。

『だっでえええぇ、、もぅ会えないんでしょ?』
『いつか会えるよ。な?だからもう泣くなよ。』

嗚咽を漏らしながらも、涙を拭って何とか止める少年。
青年はニッコリ笑い、少年を抱き上げて背中を規則正しく叩いて落ち着かせる。

『会えるから。』

そう何度も言って。

やがて、純白の着物に包まれた青年は、大人に囲まれながら神社の奥深くに入ったまま、出てこなかった。

ーーー

13年後。

あの時の少年は、今や高校生。
泣かなくなったし、サッカー部のレギュラーを任せられる頼れるハイスペイケメンになっている。

校内にファンも多く、彼を狙う女子も多い。

でも、、

『なー三綱、彼女本当にいねえのかよ〜』
『ああ。俺には、心に誓った人がいるから。』

どんなに可愛い子からの告白でも、彼は受け取ろうとはしなかった。

『またその心に決めた人かよ、、どんな美人なんだろーな。』

友達が茶化す様にいうが、三綱はしばらく考え、

『その人は、女神だ。』

大真面目にそう言った。

『ワハハッマジか!ガチ惚れじゃん!!』

どんなに揶揄われようとも、彼は愛してやまなかった。
その、心に決めた人とやらを。

ーーー

そんな彼にも、遂に時が来てしまった。

『山犬様に選ばれたのよ。三綱。』

彼は喜ぶ母親とは違い、嫌悪の表情を丸出しにして『生贄か、、』と苦々しく呟いた。

『とっても喜ばしいことよ?山の神様に選ばれたのですから!』

彼が住んでいる村は、ある神様を信仰していた。
山を守るとされている、山犬。

神様に生け贄を3年に一度の頻度で捧げないといけないらしく、彼はその生贄に直々に選ばれたのだ。

とはいっても、、決められるのは実際はくじでだが。

『はぁ、、母さん。日時は?』

『1週間後の正午よ。綺麗でいて清楚な白の着物を準備しなきゃ!』

まるで結婚式の準備をする彼女の様に、母親は喜んで着物を選んでいる。
三綱は小さく舌打ちをして、自室に戻った。

ーーー

この村は、俺が生まれる前からずっとおかしかった。
3年に一度の生贄捧げますイベントに、たかが犬を祀るためにある神社。

そして、、、俺の大事な人を奪った儀式。
こんな村、俺は嫌いだ。

そんな俺も、生贄として1週間後出発する。

『はぁ、、、あの時、さよなら言っとけば良かったかもなぁ。』

あの時。そう、智和君が生贄として連れて行かれた時。
本当は、幼心にわかっていたんだ。

もう、智和君は戻ってこないって。

でも、いつか会える。って言ってくれたから、ずっと信じてきた。

もし、智和君が生きてるなら、先に俺が死んじゃうな。

『最後に思いくらい、、伝えてえな。』

無機質な天井を眺めながら、脳裏に思い人の姿を描いた。

ーーー

1週間後。

いろんな人達から祝福を受けながら、俺は神社に向かう。
道中、クラスメイトや学校の先生もいたけれど、気持ち悪いくらいの満面の笑みで見送られた。

やっぱりこの村はおかしい。
そう思いつつも、もう手遅れに等しい。

今日、俺は山犬サマの餌になる。

『いい?三綱、山犬様は、高貴なお方なのよ。決して粗相のないように。』

何百回も聞いた忠告を聞き流し、神主に連れられて社の中へ入る。

『、、、山犬様、、か。』

鏡がポツリと置いてあるだけで、犬なんて何処にもいない。

このまま餓死するんだろうな。
そう思い、何もかも無気力になって寝転がる。

木の匂いを直に感じ、何処か安心する。
だんだん瞼が下がってきた。

嗚呼、俺が寝ている間に、山犬来て食べてくれないかなぁ。
できるだけ痛く死ぬのは嫌だからなぁ。

ーーー

何処か、懐かしい匂いで目が覚めた。
もう、何年も会ってなかった思い人の匂い。

目を開けると、真正面に俺の大好きな人の顔があった。

『え、、』
『あ、起きたか〜。いや〜お前も捧げられちまったなぁ。』

体を起こすと、俺はその人の膝に寝ていた様で。
辺り一帯花畑。

『此処は、、?俺、死んだのか?』
『いーや。此処は山犬様の神域。そして俺がその、山犬様。』
『は?!はあああああああああ?!?!』

ーー

落ち着いて話を聞いてみたら、、
生け贄として捧げられた時、俺と同じ社で寝たら花畑に来ていて、先代の山犬様がいた。

その山犬様は人型で、智和君の生け贄の経緯を聞いてめちゃくちゃに悲しんだらしい。

そして、自分の役目はもう終わりだからと、神の座を智和君に譲って自由に世界を旅している、、と。

『な、なるほど、、』

理解したら、何だか追いついてなかった涙がボロボロと出てきた。

『どうした?!何処か打ったのか?!』

慌てて心配する智和君。

俺は思いっきり抱きついた。
2人一緒に花畑に倒れる。

『よかった、、よかったよ、、生きてた生きてた、智和君、、生きてた!!』

『ああ。、、三綱は、相変わらず泣き虫が治ってないなぁ。』

優しい顔で、俺の頬を伝っている涙を拭ってくれる。

嗚呼、、あの時、さよならって言わなくて良かった。
また、会えたから。

12/3/2023, 11:49:42 AM