はた織

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 そういえば、ここから始まったなと空を見上げた。確かにあの虹の向こうには夢があった。生まれ変わったような希望もあった。生きていればたましいは輝く。そうだろうと足元を見下ろす。
 薄暗い影に覆われた中、腹を根こそぎ持っていかれたカブトムシがもがいている。残された2本の腕で、必死になって暗闇を引っ掻いている。焦茶色の甲殻にある微かな光沢と目が合った。消えかけている星の瞬きのようだ。
 どうしたら、捕食者に喰われて捨てられたのか。そんな姿になった経緯が分からない。やはり自然の前では生き物は無力である。だからこそ希望を探し求めて、自然に夢を見るのだろう。このカブトムシもいつかは夢に落ちていく。
「こんな姿でも生きているんだな」
 私は汗だくになりながら呟いた。華氏100度の熱に蒸発したたましいは、せめて虹となって生まれ変わってくれ。
           (250728 虹のはじまりを探して)

7/28/2025, 12:40:47 PM